減税や給付の財源確保で国債発行
→金利上昇で住宅ローン、中小企業に打撃

 今のところ、物価上昇による税収の上振れで財政赤字の拡大は抑えられている。一方、国の債務残高はGDP(国内総生産)の240.0%に膨張している(2023年の値、財務省)。減税や給付の財源を確保するために、政府は国債の発行を増やすだろう。少子化対策や年金、医療、介護対策、防衛費の積み増しやインフラ修繕の側面からも国債増発へのプレッシャーは高い。

 国債の発行・流通市場では、需要と供給などに基づいて金利水準が決まる。年初以降、わが国の国債市場で長期(10年国債の流通利回り)、超長期(残存年数10年超の国債の流通利回り)は上昇傾向だ。

 参院選後、長期金利には一段と上昇圧力がかかった。7月23日、10年債の金利は1.6%まで上昇。実に17年ぶりの水準だ。バラマキ政策による財政悪化懸念に加え、日米関税交渉も金利上昇に影響した。

 金利が上昇すると、さまざまな悪影響がわが国経済に及ぶ。まず、住宅ローン金利の上昇による家計の利払い負担が増えること。最近、変動金利の上昇を警戒して固定金利に乗り換える人は増えているが、今の状況が続くと、長期金利の上昇により固定金利の水準は一段と高まるリスクがある。

 中小企業の資金繰りにも、マイナス影響が及ぶ可能性は高い。人手不足に加えて、銀行の融資金利が上昇することにより、中小企業の経営体力はさらに低下するだろう。

 東京商工リサーチによると、本年1~6月期の倒産件数(負債額1000万円以上)は前年同期比1%増の4990件だった。金利上昇によって倒産件数が増える可能性はある。

 金利が上昇すると、最も大きな影響を受けるのは政府の利払い負担だ。利回りがその国の成長率を上回り始めると、雪だるま式に利払い費用が増えて財政赤字が急拡大する恐れがあることを絶対に忘れてはいけない。

 足元、わが国の潜在成長率は0.6%程度とみられる。バラマキによって一時的に個人消費が上振れたとしても、それは長続きするだろうか?

 景気停滞リスクの高まりから、政府が補正予算で追加の給付策などを実施すると、どうしても国債増発に頼らざるを得ない。そうなると、金利はさらに上昇し、利払い費用が増大して財政赤字は一層拡大する。こうした負の連鎖が起こる可能性は高まる。