
豊田自動織機が3日、トヨタ自動車などの買収提案を受け入れると表明した。豊田織機は上場廃止される見通しだが、この大型買収に“待った”を掛ける動きも出始めている。批判の矛先は価格の妥当性だけでなく、プロセスの不透明さなど複数の問題が潜んでいた。(ダイヤモンド編集部 永吉泰貴、山本興陽)
TOB価格に投資家の不満噴出
アクティビストの姿勢に変化
「非公開化の報道が出ると、株価が上がる。思惑買いで株価が上がっていくことを懸念している」
4月に非公開化検討の報道が出た直後、豊田自動織機の幹部はこう漏らしていた。報道によって株価が先行し過ぎると、買収価格の提示時に「安すぎる」との反発を招きかねない――。
その予感は的中した。6月3日、豊田織機はトヨタ自動車を中心とするグループによるTOB(株式公開買い付け)を正式に受け入れたと発表。提示された買い付け価格は1株1万6300円だ。しかし、その時点で株価はすでに1万8300円台に達しており、市場価格を大きく下回る“逆プレミアム”に投資家の間で不満が噴出している。
個人投資家だけではない。今回のTOB価格の基準日を4月25日に設定したことについて、みずほ証券チーフ株式ストラテジストの菊地正俊氏は「過去のMBO(経営陣が参加する買収)関連の案件で、1カ月以上前の株価を基準にするという話はあまり聞いたことがない」と指摘する。
さらに、当初は非公開化を前向きに評価していた英投資ファンドのAVI(アセット・バリュー・インベスターズ・リミテッド)が、豊田自動織機の取締役会に対して難色を示していることも分かった。
2015年から豊田織機への投資を開始し、昨年は親子上場解消を求める公開キャンペーンも展開したAVI。日本調査責任者の坂井一成氏は4月、取締役会が政策保有株式や親子上場の解消に向けて動いている点を「ポジティブに受け止めている」と評価した。「案件の蓋然性やTOB価格を慎重に見極める必要がある」との立場は崩さなかったが、それでも取締役会の姿勢自体には期待をにじませていた。
しかし蓋を開けてみれば、提示されたのは市場価格を大きく下回る買収価格。坂井氏はダイヤモンド編集部の取材に「6月3日の株価(18400円)には、豊田織機の非公開化に対して『適切な水準のプレミアムが支払われてしかるべきだ』との市場の考えが反映されていた。AVIとしても、現在提案されているTOB価格は、豊田織機の潜在的な企業価値を過小評価していると考えている」と述べた。
当初は前向きに評価していたアクティビストもTOB価格に失望し、苦言を呈した形だ。
では、豊田織機のTOB価格のどこに問題があり、アクティビストは何を求めようとしているのか。次ページで明らかにする。