「本を読んでこんなに泣いたことがないぐらい泣きながら読んだ」
「やさしい言葉の数々。激務に忙殺され、荒んだ気持ちが楽になり、感謝しています」
年齢や性別を問わず、このような共感・絶賛の声が寄せられているのが、『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』(クルベウ著、藤田麗子訳)だ。多くの読者の心に響いている背景には、「しんどさを抱えながらも、平気なふりをしてしまう」経験が、多くの人に共通しているという現実がある。SNS時代に生きる私たちにとって、「自分を大切にすること」がいかに困難か。そして、なぜこの本は多くの人にとって救いになったのか。ベストセラー『子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社)の著者であり、児童精神科医として活躍する精神科医さわ先生に、本書を読んだ感想と、その反響の背景について語ってもらった。(取材:ダイヤモンド社・林えり、構成・文:照宮遼子)

自分を責めてしまう人に必要な一冊
──『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』を読まれたとき、どのような印象を持たれましたか?
精神科医さわ(以下、さわ):率直に、「この本が売れるのは納得しかない!」と思いました。普段、私が診察室で患者さんにお伝えしていることと重なる部分が多かったです。丁寧に言語化されて、文章がとても優しく、愛情にあふれていて、「これは多くの人の心をとらえるだろうな」と感じました。
──実際、小学生から90代の方まで、幅広い年代の方に手に取っていただいています。
さわ:やはり、多くの方が「自分を責めてしまう」「自分を大切にできない」といった悩みを抱えています。だからこそ、「あなたを一番大切にしてあげていい」というメッセージが、深く心に届いたんだと思います。

「愛とは何か」「優しさとは何か」本質的な悩みにそっと寄り添ってくれる言葉たち
──本書には仕事や人間関係、恋愛、人生において、挫けそうなときや疲れ切っているときにどう過ごすといいか、心を癒すような優しい文章で書かれています。その中でも特に印象に残った章やテーマがあれば教えてください。
さわ:とくに恋愛の章は、きっと多くの方の心に響いていると思います。私自身、「愛とは何か」「優しさとは何か」といったテーマを考えるのが好きなので、とても惹き込まれました。
──心に残った言葉はありますか?
さわ:はい。「愛とは何なのか、考えてみた。愛はお互いに確信を与え合うこと。雨が降っても、雪が降っても、風が吹いても、暑さが訪れてもお互いに変わらない心。それを私たちは愛と呼ぶ」(p.82)という言葉にとても惹かれました。
私自身、パートナーシップについては少し失敗してきた人間なので(笑)、この言葉はとても響きましたし、次に活かしたいなと素直に思いました。
「他人の価値観」で生きていると、人生は苦しくなる
──この本をどんな方にすすめたいと思いますか?
さわ:日頃から生きづらさを抱えている人におすすめしたいですね。そういった人たちに、一番感じてほしいのは「愛」や「優しさ」です。
──「生きるのが苦しい」と感じる背景には、どんな生き方や考え方が関係していると思いますか?
さわ:背景にある考え方として大きいのは、「自分の人生を生きていない」という感覚です。どこかで他人の価値観に従って生きるなど、「自分が不幸なのは親のせい」「周りが冷たいせい」といった、他責的な考えに囚われていると、やはり苦しくなってしまいます。
この本は、そうした人たちを愛で包んでくれる本だなと思います。「忘れかけていた優しさ」が心に入ってくるから、きっとみんな癒やされるんだと思います。私自身も、本当に癒やされました。
「私は大丈夫」と思える感覚が、心の支えになる
──逆に「苦しくない生き方」というのはどういったものでしょうか?
さわ:苦しくない生き方をしている、幸せに生きている人というのは、「この世界には愛や優しさがある」と信じていて、どんな状況でも「私は大丈夫」「私は愛されている」といった、ある種の確信を持っている方たちです。その確信は別に根拠がなくてもいいと思っています。
──「優しくされてもいい」「自分を大切にしていい」と思えること自体が、実は難しいときもありますよね。
さわ:そうですね。だからこそ、自分の「好き」という感覚を大切にすることが重要です。そして、自分を優しく扱うということを「してもいいんだ」と思えるようになること。まさに、それがこの本の答えそのものなのではないかと感じています。
──自分に厳しくしてきた人ほど、「自分に優しくする」ということがどういうものなのか、わからなくなっている気がします。
さわ:たとえば、誰かに誘われたときに、「断ったら悪いかも」と思ってしまうことってありますよね。でも、そこで一度立ち止まって、「本当に私は行きたいのかな」と、自分の気持ちを確認してみてください。無理に頑張らなくてもいいんです。まずは自分を大切にしてあげてください。そんな許しが、この一冊には込められていると思います。
(本稿は『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』に関する書き下ろし特別投稿です)
塩釜口こころクリニック(名古屋市)院長。児童精神科医。精神保健指定医、精神科専門医、公認心理師
1984年三重県生まれ。開業医の父と薬剤師の母のもとに育ち、南山中学校・高等学校女子部、藤田医科大学医学部卒業。勤務医時代はアルコール依存症など多くの患者と向き合う。発達ユニークな娘2人をシングルで育てる母でもあり、長女の不登校と発達障害の診断をきっかけに、「同じような悩みをもつ親子の支えになりたい」と2021年に塩釜口こころクリニックを開業。開業直後から予約が殺到し、現在も月に約400人の親子を診察。これまで延べ5万人以上の診療に携わる。患者やその保護者からは「同じ母親としての言葉に救われた」「子育てに希望が持てた」「先生に会うと安心する」「生きる勇気をもらえた」と涙を流す患者さんも多い。
YouTube「精神科医さわの幸せの処方箋」(登録者10万人超)、Voicyでの毎朝の音声配信も好評で、「子育てや生きるのがラクになった」と幅広い層に支持されている。
著書にベストセラー『子どもが本当に思っていること』『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』(以上、日本実業出版社)、監修に『こどもアウトプット図鑑』(サンクチュアリ出版)がある。