ただ、こんなことを言うと減税派の皆さんから吊し上げられそうだが、石破首相はそれほどおかしなことを言っていない。むしろ、国際社会から見ると、石破首相をボロカスにこき下ろしている人たちの方が「えっ? この人たち、日本を内部から崩壊させようとしてない?」と思われてしまうだろう。

 世界では物価上昇に合わせて、政府や自治体がしっかりと最低賃金を引き上げていくのが「常識」だからだ。

 例えば、経済成長著しい台湾では賃金も力強く上がっているが、これは減税をして景気がよくなって企業が自発的に賃上げをしたわけではない。2016年に始まった蔡英文政権が24年5月までに、「最低賃金を3万元まで引き上げる」ということを目標に掲げて、計画的に実行してきたからだ。

《「中央通信社」によると、主計総処国勢普査処の陳恵欣副処長は、蔡英文政権による最低賃金の引き上げが、全体の賃金上昇につながったと指摘》(JETRO ビジネス短信 賃上げが続く台湾、今後も賃金上昇の見通し 2020年12月8日) 

 この方針は今も続いている。だから、台湾では「最低賃金の引き上げ? そんなバカな政策をする首相は売国奴か工作員に決まっている!」みたいな倒閣運動は起きない。

 だが、このような話をすると決まって、「最低賃金の引き上げには中小企業が倒産するなどの副作用があるのでもっと慎重にすべきだ」とか言い出す人がいるが、世界ではそういうロジックで最低賃金引き上げを見送るような国は少ない。

 物価が上昇しているのだから労働者は賃金が上がらなければ生活できない。消費を冷え込ませないためにも、企業が対応するのが当然という考え方が一般的だ。

 それができない経営者は「時代の変化」についていけないということなので、市場から退場していただく。厳しいように聞こえるかもしれないが、経済というのはそのような「産業の新陳代謝」が繰り返されて成長していくものだ。

 しかも、最低賃金を引き上げると確かに一時的には失業者は増えるが、それが未来永劫(えいごう)続くわけではない。