納得なき異動は「禁じ手」
異動の際に大事なのは、本人が異動の理由について納得していることです。
「この人とは合わないから異動させよう」とか、「なんか使いづらいから他に回そう」とか、そういう発想での異動は本当に多い。でも、それって最低です。単なる「追い出し」でしかない。
本当に異動が必要な場合は、プロセスを丁寧に踏まなければいけません。
たとえば、営業部から他の部に異動になったとして、あとから「○○さんって営業に向いてなかったよね」と言われたら、どう思いますか? 納得なんてできないですよね。
だからこそ、「こういう課題があって、こういうフィードバックをして、こういう改善を試みたけれど、結果が出なかった」という過程をきちんと伝え、本人が「ほかに自分が活かせる仕事があるかもしれない」と納得できるような対話が必要です。
それがないまま、ある日突然「来月から異動ね」と言われたら、本人は「見捨てられた」「失敗だと思われた」と受け取ってしまう。そんなことでは、本人も新しい部署も、誰も幸せになりません。
異動時に必要な“2on1”
だから私は、異動のときには「今の上司・次の上司・本人」の三者で話し合いを持つことを勧めています。業界ではそれを“2on1”と呼ぶこともあります。
この人にはこういう課題があって、こういう努力をしてきたけれど、現状では成果が出ていない。だから、次の場所で再チャレンジする――。そういう丁寧な説明があって、本人が納得した上で初めて、異動という選択が成立するのです。
ところが現実には、「あ、ごめん、言い忘れてたけど異動ね」なんて雑な対応が、まだまだ平気で行われている。
しかも、自分で決めておきながら、「向こうの部署が欲しいって言っててさ」とその場しのぎの嘘をつくことすらある。そして、受け入れ側も本人の話をちゃんと聞かずに受け入れてしまう。
部下を異動させるときに一番大事なのは、「納得感」です。本人が理解し、腹落ちして、「自分のための選択だ」と思えること。そうでなければ、それはただの“追放”にしかなりません。
(本記事は、『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』に関連した書下ろし記事です)
・パーソル総合研究所取締役会長
・朝日新聞社取締役(社外)
・環太平洋大学教授 ほか
1968年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、野村総合研究所に入社。2000年スポーツナビの創業に参画。同社がヤフーに傘下入りしたあと、人事担当執行役員、取締役常務執行役員(コーポレート管掌)、Zホールディングス執行役員、Zホールディングスシニアアドバイザーを経て、2024年4月に独立。企業の人材育成や1on1の導入指導に携わる。立教大学大学院経営学専攻リーダーシップ開発コース客員教授、公益財団法人スポーツヒューマンキャピタル代表理事。神戸大学MBA、筑波大学大学院教育学専修(カウンセリング専攻)、同大学院体育学研究科(体育方法学)修了。著書に『1on1ミーティング 「対話の質」が組織の強さを決める』(吉澤幸太氏との共著、ダイヤモンド社)、『会社の中はジレンマだらけ 現場マネジャー「決断」のトレーニング』(中原淳・立教大学教授との共著、光文社新書)、『残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方』(光文社新書)がある。