「明るく真っ直ぐなヒロインは
あんまり興味がないし描けない」

 暢さんがこのドラマののぶを見たらなんて言うと思いますか。中園さんに聞いてみた。

「いやいや、全然違うじゃないですかと言われるかもしれません(笑)。ドラマの都合で幼馴染みにさせてもらったりもしているのでね。

 でも、やなせさんが小さいときに気が弱くて男の子とは遊ばず、気の強い女の子と遊んでいた話はやなせさん本人から伺いました。私はそれをのぶちゃんにしちゃったんです」

 速記ができてカメラで撮影もできた暢さん。記録に残った暢さんの写真は知的で颯爽としている。やなせさんも暢さんの能力を買っていたようだ。

 暢さんは自分の夢よりやなせさんを支えることを選んだけれど、もしかしてあり得たかもしれない別の自分に、時々、そっと思いを馳せることもあったかもしれない。『あんぱん』ののぶは、日本、いや世界中に存在する夢をどこかに置き去りにしてきてしまった女性にそっと寄り添うキャラクターなのだろう。

「私が描くものは朝ドラ系のキャラクターじゃないという自覚はあるんです」

 中園さんは言う。「明るく真っ直ぐなヒロインはあんまり興味がないし描けない。そんな私に朝ドラを任せてくれて本当にありがたかったです」

 中園さんが言う朝ドラらしからぬキャラの最たるものは登美子(松嶋菜々子)だ。嵩を捨てて再婚し、たまに現れては言いたい放題。自由奔放にもほどがあるキャラクターだ。

「オンエアを見ているうちに、さすがにこれはお茶の間の皆さんに不評を買うのではないかと心配になってきて、途中から少しいい母親に路線変更しようとしたんです。

 そうしたら、松嶋菜々子さんが『私は、登美子が死ぬまでこのままでいきたい』と監督を通じて言ってくださって。思いきりそっちに振り切れるようになりました。登美子くらい振り切れていると書いていて気持ちよかったです。

 登美子が好きという女性視聴者の声をよく聞くので、書いてよかったと安堵しています」