同窓会で女性たちが口にする
「こんなはずじゃなかったのに……」をちゃんと描きたかった

 ようやく幸せになったように見えたのぶだったが、嵩が作家として大成していくにつれて、自分の存在を見失っていく。「みんな、お父ちゃんに言われたとおり、自分の夢を追いかけて、ちゃんとつかんだ。うちは何しよったがやろう」(第103回)とまさに「なんのために生まれてきたのか」と悩む。

 モデルである暢は高知新聞社での活躍などを見るに颯爽とした職業婦人のようだ。なぜのぶをうまくいかずに悩む人に描いたのかと聞くと、中園さんは「すごくありがたい質問で……」とのぶに託した思いを語りだした。

「多分、誰もが、一生懸命生きてきたのに、あれ、こんなはずじゃなかったのに……と思う瞬間があるのではないでしょうか。のぶみたいな女の子は私の周りにもたくさんいました。

 みんな、なりたいものを夢見ていたけれど、結局、結婚して、夫や子どもを支える人になってしまいます。同窓会に出ると、皆さん、そんなことを口々に言うんですよ。真面目に一生懸命生きてきた人ばっかりなのに。そんな女性たちの心の叫びをちゃんと描きたいと思ってのぶにそのセリフを言わせました。

 自分は何者にもなってないというふうに悩む女の人は実はすごく多いと私は思っていて。暢さんはやなせさんのことも支えながら、お茶の先生になったり山に登ったり、やりたいことをやっていたと思いますが、広告費を払わない人にハンドバッグを投げつけていた時代と、お茶の先生をしながら山登りをしている時代とではキャラがいくらか変わっている気がするんです。

 結婚後はずいぶんおしとやかになったのではないかと私は感じました。陰でやなせさんを支えることに一生懸命になって、表に出てこなくなっているんですよね。

 脚本を書くにあたり、暢さんのことを知っている人になんとか取材しようと試みたのですが、やなせさんと同じマンションに住んでいて、やなせさんの評伝を書いたノンフィクション作家の梯久美子さんも、やなせさんと交流の深かったアンパンマンの声を担当した戸田恵子さんも、暢さんとほとんどお会いしたことがないそうです。

 そういう話を聞くと、意識的に表には出ていかなかったのだろうなぁと。だとしたら、何者にもなれなかったことを反省することもあったのではないかと考えました。

 そこで、ドラマののぶに、少女時代、お父さん(加瀬亮)に女の子だって大志を抱いていいと言われたことを自分は叶えられただろうかと、立ち止まって考えさせました」