変化する人やモノばかり……「絶対に逆転しない正義」はあるのか

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「絶対」と言い切ることの強さ。そうすると人はなんだかそんな気持ちになっていく。「絶対」は挫けそうになったとき自分を鼓舞する唯一の命綱でもあると同時に、安易に使うとその価値を失う。

「失敗しない」無敵のヒロイン・大門未知子もいいけれど、中園ミホは『あんぱん』で「絶対」を相対化した。

 絶対を信じ過ぎてはいけない。それは、『あんぱん』に書かれている、絶対戦争に勝つという盲信で突き進んだことへの反省によるものだろう。

 嵩(北村匠海)とのぶ(今田美桜)は逆転しない正義を探している。これはある種「絶対」である。「絶対に逆転しない正義」というものは果たしてあるのか。どうしたって物事は揺れ動き、そのときによって変化してしまうのではないか。

 主人公ののぶ自身はずっと変化のなかにいる。教師、新聞記者、代議士秘書、会社員と転々としてきて、目下専業主婦状態になり、不安定な気持ちになっている。

 登美子(松嶋菜々子)の家でお茶をいただいて慰めてもらっていると、登美子がはじめたお茶の教室の弟子たちがやって来た。

 弟子たちは、のぶが嵩の妻と知ると顔をほころばせる。『手のひらを太陽に』が家族で大好きだと言い、登美子は誇らしげに嵩の自慢をする。

 その会話をのぶはニコニコ聞いているが、内心、微妙な気持ちだろう。かつては、嵩は誰にも見向きもされていなかったが、すっかり有名人なのだ。いつの間にか嵩は変化している。

 嵩は、登美子が自分を自慢にしている話を聞いて「三星百貨店をやめたことをあんなに反対したのに」と笑う。さらに「やはり本人が好きな道に進むのが一番ですね」と言っていたと聞くとお茶を吹き出す(この吹き出し方が豪快で漫画みたい)。

 登美子にも「絶対」はなく、その場その場で考えが変わっているのだ。それが彼女の生きる術なのだろう。

 嵩とのぶの求める「絶対に変わらない正義」は見つかるだろうか。ドラマはそんな問いかけをしているように思える。