謎の手帳が開いた「投資」への扉

「え、株ですか? いえ、やったことはないですけど……」
なぜ、そんなことを聞かれるのか全く見当がつかない。老人は「そうやろな」と満足げに頷くと、僕の手にある手帳を指さした。

「その手帳はな、ワシが70年、市場と対話してきた記録なんや。天気の記録みたいに見えたやろ? あれはな、市場の雰囲気…つまり多くの人が熱狂したり、恐怖にかられたりする『感情の天気』を記録しとるんや」
老人は、個人投資家の世界でその名を知られる伝説的な投資家だった。

手帳に記された「投資の羅針盤」

老人に促されるまま、改めて手帳のページをめくってみる。そこには、意味がわからないと思っていた数字や記号と共に、こんな言葉が書きつけられていた。

嵐の日に船を出すな。凪を待て

市場が大きく荒れているときは、焦って行動するな。冷静に状況を見極め、落ち着いてから投資判断を下せ、という意味だという。初心者が陥りがちな「焦り」や「恐怖」に流されないための戒めだった。

木を見て森も見る。幹の太さを見極めよ

短期的な株価の動き(木)だけを追うのではなく、その企業が属する業界全体の動向(森)や、企業の財務状況や成長性といった本質的な価値(幹)を見極めることの重要性を示していた。

自分の言葉で語れるものにだけ投資せよ

他人の意見や流行に流されるのではなく、自分がその企業のビジネスを理解し、なぜ価値があるのかを説明できる銘柄にだけ投資すべきだという、投資の基本原則がそこにはあった。

未来を変えるための第一歩

それは、単なる儲け話のテクニックではなかった。社会の動きを読み解き、企業の価値を見出し、そして何より自分自身の心をコントロールするための、普遍的な哲学だったのだ。

もし君が、自分の未来を自分の手で作りたいと思うなら、まずは社会と経済の仕組みを知ることから始めるとええ。株は、そのための最高の教科書になる
老人はそう言ってにっこりと笑った。

この日を境に、僕の日常は一変した。あの日公園で拾ったのは、ただの手帳ではなかった。
それは、経済的自立と未来への希望が記された、人生の航海図だったのだ。
この出会いが、新しい世界への扉を開くきっかけになるかもしれない。

※本稿は、『89歳、現役トレーダー 大富豪シゲルさんの教え』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。