「殺しておけばよかったな」アルコール依存症の39歳息子を愚痴る両親の言動が怖すぎて震えた『「子供を殺してください」という親たち』原作:押川剛 漫画:鈴木マサカズ/新潮社

さまざまなメディアで取り上げられた押川剛の衝撃のノンフィクションを鬼才・鈴木マサカズの力で完全漫画化!コミックバンチKai(新潮社)で連載されている『「子供を殺してください」という親たち』(原作/押川剛、作画/鈴木マサカズ)のケース2「親と子の殺し合い・後編」から、押川氏が漫画に描けなかった登場人物たちのエピソードを紹介する。(株式会社トキワ精神保健事務所所長 押川 剛)

おにぎりを頬張る両親のさりげない会話が怖すぎる

 今回のマンガに登場する則夫は、精神科病院内で殺人未遂事件を起こし、刑務所に収監された。

 彼の父親は当初、被害者や病院に頭を下げるどころか、病院の管理体制に強い憤りを見せた。こちらが一喝しなければ、法的手段も用いて管理体制を問う勢いであった。

 則夫がどれほど対応困難な人物であるか、また、そこまでの自分たちの子育てについて顧みる様子など微塵もなく、すべてを病院のせいにしようとした。

 問題を抱える子供の「死」を願い、それを口にする家族には山ほど会ってきたが、あれほど何度も、そして軽々と「死んでくれたら」と話す両親も珍しい。あるときは、私の事務所に「ご挨拶がしたい」とやってきて、入院中の則夫のトラブルについて愚痴をこぼした挙句、「腹が減った」と、持参した弁当を食べ出したことがあった。

 両親はそろって、おにぎりを頬張りながら、「やっぱりあのとき、あいつを殺しておけばよかったな」「寿命の短いうちのばあさんが、いっそ則夫を殺してから死のうかと言っている」などと淡々と語り合っていた。

 アルミホイルに包まれたつつましいおにぎりと、「殺す」の言葉はあまりにも不釣り合いで、私は言いようのない恐怖を感じた。

 彼の両親は「精神障害者移送サービス」の業務終了後も、何かと理由を付けては相談の連絡をよこした。入院先の病院への義理もあり、事務所のスタッフも対応せざるを得なかった。

 私はたびたび、業務依頼なら追加の費用は払ってもらうと父親に告げ、そのときは父親も「もちろんです」「今、工面しています」などと返すのだが、結局1円たりとも支払われていない。

 父親は地元では有数の企業の営業マンで、重役まで上り詰めた経歴がある。こちらが動かざるを得なくなるような話の持っていき方も、十分に心得ていた。

 則夫が刑務所に入ったあと、父親と話す機会があった。

 父親は、「こんな事件を起こすんだから、やっぱり殺しておけばよかったな」とつぶやいた。そして、則夫が刑期を終えて社会に出てくる日のことを、極度に恐れていた。子供の死を心の底から、腹の底から願っている親というのは、被害者のことなど1ミリも頭にない。さすがの私も、これ以上は関われないと、きっぱり縁を切った。

 則夫の家庭は、父親の肩書からも地元では「ご立派な」と評される一族である。

 このような家族からの依頼は多々あったが、ビジネスや金もうけについてはしっかり頭がはたらき、結果も残している。しかし、こと子育てとなると、育て方はもちろん、子供が起こす数々の問題に対し、あまりにも考える視野が狭いと感じることが多い。

 生きるか死ぬかの事態に陥ってもなお、すべてを自分たちの都合のいいように解釈していく。私に言わせると、家族もまた、常人には理解しがたい妄想を抱いているのだ。

【あらすじ】

 39歳の則夫は酒に溺れ、飲酒運転で大事故を起こした。それでも酒をやめられず、親に刃物を向けてしまう。限界を感じた両親は助けを求めて押川の元へやってきた――。

 現代社会の裏側に潜む家族と社会の闇をえぐり、その先に光を当てる。マンガの続きは「ニュースな漫画」でチェック!

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