科学者にとっては、ポジション争いよりも真理や真実の探求が重要であり、探求すべきテーマが尽きることはありません。年齢はひとつの記号に過ぎないので、そもそも「老害」という発想が生まれにくいのです。

新しい挑戦をする人の脳は
何歳になっても成長し続ける

「老害」という言葉に対して僕が一番違和感を感じるのは、この言葉を使っている人自身が自分の精神的な老化に気がついていないと感じるからです。

 脳科学的にいえば、脳は常に進化を続けます。それこそ、死ぬ直前まで脳は成長し続けるのです。

 そのため、行動すればするほどに、人間はいつでも変わることができます。だからこそ、日頃の行動次第で、年齢を重ねるにつれて脳が若返り、常に変化し続ける人もいるわけです。

 たとえば、元東京大学医学部教授で解剖学者の養老孟司先生は、まさに年を重ねるごとに若返っているような方です。養老先生と話をしていると、常に革新的で、新しい視点を与えてくれます。

 一方で、「老害」という言葉ですべてを片付けてしまう人は、「人間は変わらない」という前提に立っているからこそ、その発言をするわけです。つまり、自らが精神的に老化していることを認識できていないのです。

書影『60歳からの脳の使い方』(茂木健一郎、扶桑社)『60歳からの脳の使い方』(茂木健一郎、扶桑社)

 また、地位や上下関係にとらわれず、自由で多様な視点を持ち、本当に重要な真理や価値あるテーマを追求していくことでこそ、人間の真の成長や進歩が訪れると僕は信じています。

 しかし、「老害」という言葉を多用する人々は自分よりも上の世代の人の意見を受け入れないので、己の視野を狭め、結果的にすでに新しい視点を受け入れる柔軟性を失っているとも言えるのです。

 自分の心構え次第で、誰しも年齢を重ねても精神的に若さを保ち、新しい視点を楽しみ続けることができます。「老害」という言葉に臆する必要はありません。

 自分にとって楽しいと思えることは、年齢にとらわれずに挑戦していくこと。それが、いつでも脳を若々しく維持し続ける秘訣なのです。