嬉しかった記憶も多い。キャストになって間もないころ、シンデレラ城の裏のオンステージにいると40代くらいの男性が私に話しかけてきた。横に奥さんと小学生らしき男の子と女の子がいる。

東京ディズニーで働くキャストをなじる常連客、「ミニーおばさん」の謎〈再配信〉笠原一郎『ディズニーキャストざわざわ日記』(三五館シンシャ)

「もうすぐ始まるパレードを見ようと思っているのですが、どこか良い場所はありますか?」
「パレードの列までは少し距離がありますが、さえぎるものがないのでこのあたりからだとよく見えますよ」

 私は日々の業務の中で見いだした、シンデレラ城裏のトゥモローランドに近いマル秘スポットを伝えた。

 パレードが終わって少し経ったときだった。掃除をしていると、その家族連れが駆け寄ってきた。「さきほど教えてもらった場所から見ました。たしかに最高の場所でした。その御礼が言いたくて捜していたんです。ありがとうございました!」

 ゲストに楽しい時間を提供できたという実感は、この仕事の喜びでもあった。

※ゲストもまたいろいろ
 イスラム教の信者であろう人が、オンステージの片隅にマットのようなものを敷き、その上で地面に頭をつけてお祈りしている場面を目にしたことがある。きっとメッカの方角に向かっているのだろう。宗教の力はすごいと痛感させられた。
※すぐに走り出す
 一部のマナーの悪い「撮り鉄」同様、マナーの悪い「撮りディズ」が存在する。熱中するあまり、周りが見えなくなってしまうようだ。
※頻繁に通ってくるマニア
 年に2回来日し、舞浜のホテルに毎回1カ月滞在してパークを楽しむ米国人の老夫婦・リチャード&レイチェルはテレビ番組などで紹介され、有名になった。オンステージで会えば、ハグしてくれる陽気な夫婦で、毎回違うデザインのオリジナル缶バッヂをキャストにくれた。キャストがゲストから物をもらうことは基本的にNGなのだが、この夫婦は例外的に認められている。私の手元にもご夫婦からいただいた5種類の缶バッヂがある。
※同じ場所に立っていて
「ミニー・オー!ミニー」の公演は1日に4~5回行なわれ、公演と公演の合間の時間帯があるのだが、彼女はその時間もその場所に立ち尽くしていたようだ。
※キャストを目の敵
 パレードの際、開始前に「キャプテンフックス・ ギャレー」の縁石に上がらないようにアナウンスしていた。これに対して、必ず縁石に上がって見ているおじさんがいた。この人も頻繁に通ってくる常連で、キャストのあいだでも有名だった。縁石に上がり、注意するたびに「なんでここで見ちゃダメなんだよ」とクレームをつけた。「縁石に上がる→注意→クレーム」までがワンセットだった。