
東京ディズニーリゾートに57歳で入社し、65歳で退職するまで、私がすごした“夢の国”の「ありのまま」をお伝えしよう。楽しいこと、ハッピーなことばかりの仕事などない。それはほかのすべての仕事と同様、ディズニーキャストだってそうなのである。
※本稿は笠原一郎『ディズニーキャストざわざわ日記』(三五館シンシャ、2022年2月1日発行)の一部を抜粋・編集したものです
某月某日 ××処理
できればしたくない作業
カストーディアルキャスト(清掃スタッフ)泣かせ、それがイレギュラー対応である。なかでも一番多いのは嘔吐処理だ。“夢の国”ではあるものの、嘔吐処理はかなり多い。週に1回程度、発生する*。
SV(スーパーバイザー)がグループ通話でカストーディアルキャストに発生場所を流してくる。このメッセージがあったら、発生場所の近くにいるキャスト2~3名が駆けつけて対応する決まりになっている。
とはいえ、SVは誰がそばにいるかを把握しているわけではない。キャストそれぞれが、自分が近いと思ったら自主的に駆けつけるだけだ。
私はというと、PHS(簡易型携帯電話)に嘔吐処理のメッセージが届くと、その場の掃除に集中し、勇敢な有志たちが駆けつけるのを息を潜めて待った。1分ほど待っても、有志が現れないとき、意を決して現場へ向かった。
嘔吐処理は新型コロナ以前から感染対策としてマスクと防菌手袋をし、殺菌剤が目に入るのを防ぐため防御メガネをかけて行なう。暑い日は息苦しいし、汗がメガネに落ちるので難儀する。
できる限りゲストの目に触れないよう、また処理範囲がわかるようペーパータオルをかけ、トイブルーム*を駆使して嘔吐物をダストパン*に入れ込む。作業するそばで気をつけて通行していただくようキャストがゲストコントロールをする。
嘔吐物の量が少なければいいが、大量だと作業も相当の手間と時間を要する。
8月の不快指数の高い日のこと。私の目の前で、小学生くらいの男の子が突然嘔吐した。