トランプ「上納金」でエヌビディアやAMDが標的に…
トランプ氏の独断専行は、米国そして世界経済にも負の影響を与えている。米国では4月半ば以降、失業保険の継続受給者数の増加ペースが加速。企業の採用意欲が低下し、失業者が再就職先を探すのが難しくなっている。
物価上昇の気配も出始めた。7月の生産者物価指数は、前年同月比で3.3%上昇。前月実績(2.4%)、事前予想(2.5%)を大きく上回った。変動が大きい食品とエネルギーを除いたコア指数が同3.7%も上昇したのは見逃せない。当面、景気減速と物価上昇が再燃することへの懸念が高まるだろう。
トランプ氏は民間企業の効率性や研究者の意欲をそいでもいる。いわゆる「上納金」問題では、エヌビディアとAMDに対して、スペックを落としたAIチップの対中輸出の条件として、対中売上高の15%を政府に納めるよう指示。両社はこの求めに応じざるを得なかった。
この輸出税とも呼ばれる上納金が、企業の業績を圧迫している。医薬品や半導体への高関税の賦課により、米国で事業を運営する内外企業の効率性も急速に低下する。それは世界経済にマイナスの影響だ。
上納金に関して、法的根拠は明確ではない。米国の法律専門家によると、1期目のトランプ政権で成立した「輸出管理改革法」は、大統領に輸出認可の条件設定権を付与しなかった。つまりトランプ氏は自分で制定した法律すら守らず、あまりに身勝手だ。他の輸出管理法にも、明確な権限規定はないとの指摘は多い。
また、大学など研究機関との対立も鮮明化している。多くの研究者は自由に研究を進められる環境を好むが、トランプ氏はそれに圧力をかけている。一部の研究者はそうした政府のスタンスを嫌って、欧州などへ転出している。その影響は決して小さくはない。
政府の役割は、特定の人物の利害ではなく、国民全体の財産権や利益、安全を保障することにあるはずだ。経済、社会保障、安全保障などの問題点を、合理的な理屈によって解決し、あるべき状況を実現する。そのために各種政策を立案・運営する必要がある。
ところがトランプ氏は企業に政府との取引を求め、金銭で問題を解決すればよいと思い込んでいるようだ。そうした考えが、十分な法的な根拠が明確でないまま実行されている。