こうして、彼女はウィーンで彼と降りる決断をする。その日に知り合ったばかりの彼と、朝が来るまでの時間を過ごすために。
僕がここから学んだのは、「まずは相手に想像させることが大切」ということだ。
相手の記憶に残る話術とは
あえて説明しないこと
彼の「こう考えてほしい」という言葉で、彼女の脳内には「ウィーンでこの男の子と途中下車したら」というイメージが膨らんだのだ。彼女がイメージできたからこそ、彼の願いは実現した。
たとえば、情報番組に自分の担当する著者を売り込むとする。著者のよいところを伝えたり、番組が求めることを伝えたりすることも大事だけれど、そんなときに、こんなふうに伝えてみる。
「こう考えてみてください。万が一この著者の出演が決まったら、どんな構成が考えられるでしょうか?そんな簡単に出られないのはわかっています。勉強までに教えてください」
こうすると、そのディレクターさんは、過去の事例や経験と照らし合わせて、会議で通すための構成を想像し始める。
不思議なことに、いったん頭の中で想像が始まると「あ、できるかも」と思ってもらいやすくなるようだ。これで著者の番組出演が決まったことは数え切れないぐらいある。もちろん決まらないこともたくさんある。信頼関係が築けていないと、なかなかできない質問だとも思う。
それでもこの「ビフォア・サンライズ理論」は、何かを提案し、人の心を動かしたいときに非常に有効な方法だ。
僕は、本を紹介するときには、あえて内容をすべて説明しない。
内容を説明するのはこちらの都合であって、相手が聞きたいことではないからだ。そして、すべてを伝えてしまうと、人は「わかった気」になり、印象に残りにくくなるものなのだ。
重要なのは、「え?何それ?」と思わせること。伝えたいことの一部を相手の頭に残すことだ。
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この方法を映画『ビフォア・サンライズ』から学ぶずっと前、じつは子どもの頃、無意識のうちに叩き込まれていたことに大人になってから気づいた。これには、まず僕の生い立ちを説明する必要がある。