エプロン姿の女性写真はイメージです Photo:PIXTA

「買ってください」とは言わない。なのに、相手は自然と欲しくなる…。かつて百科事典を日本一売った書店員のセールストークは、「あえて説明しない」という常識外れの手法だった。一生懸命に営業しないのに、なぜ売れるのか?書籍PRを生業とするプロが、正しい“モノの売り方”を明かす。※本稿は、黒田 剛『非効率思考 相手の心を動かす最高の伝え方』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。

映画の名シーンが教える
相手を動かす言葉の力

 僕がメディアの人に本を紹介するときに必ず思い出すのが、映画『ビフォア・サンライズ』のワンシーン。このシーンを念頭に置いた提案で、何度となく本のメディア露出が決まってきた。

 そこで僕は勝手に「ビフォア・サンライズ理論」と呼んでいる。

 僕はこの映画が大好きで繰り返し観ているのだが、知らない人も多いと思う。

 この映画の内容を簡単に説明すると、アメリカ人の青年とフランス人の大学生の女の子が、ブダペストからパリに向かう列車の中で出会い、途中のウィーンで一緒に降りて、2人で14時間を過ごすというシンプルな話だ。

 この映画の名場面(僕はそう思っている)が、青年が女の子に「一緒に列車を降りよう」と誘うシーンだ。

 食堂車では楽しく会話が進んだが、青年は帰国する飛行機に乗るため、ウィーンで降りなければいけない。女の子はそのまま列車に乗ってパリまで帰るのだという。でも、青年は一緒にウィーンで降りてほしい。そこで彼はこう言う。

「こう考えてほしい。今から10年か20年後、君は結婚している。そして、昔出会った男たちのことを思うんだ。その中の誰かを選んでいたらと……。それがたとえば僕だよ。これは未来から過去へのタイムトラベルなんだ。僕はやっぱり退屈な男だった、と思ったら、現実の夫に戻ればいい」