
「すべての人の心に届く叙情詩だ」
八木が嵩の詩を絶賛
自費出版した『ぼくのまんが詩集』。
喫茶店で打ち合わせしていたのは、この本のことだった。のぶの誕生日のために作ったのだ。
出版社は蘭子が紹介したもので、だから蘭子は、メイコがわいわい言っているとき、澄まし顔だったというわけだ。
メイコは刺繍。嵩は詩集。これはダジャレであろうか。ということはさておき。嵩は売れっ子なので、自費出版するお金もあるだろう。自分のやりたいことは自分でやる。理想的な生き方だ。「NHK紅白歌合戦」でも歌われるような歌詞を作って、大活躍で、好きな表現もできて、もう何も悩むことはないだろう。
なぜ嵩のモデルのやなせたかしは、「遅咲き」という切り口にされているのか。苦労して叩き上げたというほうが大衆が好むからだろう。やなせたかしは多分に広告的戦略を駆使した人なんだろうなと筆者は思っている。
嵩の自費出版の詩集はいつの間にか、八木(妻夫木聡)の手にも渡っていた。たぶん、蘭子から渡されたものであろう。
八木は「おまえの詩は子どもでもバカでもわかる」「すべての人の心に届く叙情詩だ」とものすごく高評価で、突然「詩を書け」と言い出す。そして、湯飲みなどに、嵩の絵や詩をつけた商品を作ることを思いつく。善は急げと、陶器の工房の準備に動く八木。キャラクター商品のサンリオの萌芽であろう。
その頃、のぶは、嵩の詩集を、長屋の前で読んでいる。子どもたちが吹いて遊んでいるシャボン玉が
大量に舞っている。詩を読んでのぶは夢心地。
何かが大量に舞う画面は『あんぱん』では時々ある。序盤、子ども時代、御免与町でも何か虫みたいなものが大量に舞っていた。中盤、戦地ではタンポポの綿毛。そしてシャボン玉。エモい描写は嵩のメルヘンの世界を表している。そして、のぶは、嵩の創作の世界のミューズという、最も重要な役割を担っている。