仕事や恋愛、家庭、人間関係がうまくいかないと、「こんな自分ではダメだ」と自分を責めてしまったり、誰にも頼れず一人で抱え込んでしまったりすることも。そんなとき、そっと寄り添ってくれる本が『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』(クルベウ著/藤田麗子訳)だ。「本を読んでこんなに泣いたことがないぐらい泣きながら読んだ」「大切な人にプレゼントしたい」など多くの喜びの感想が寄せられる1冊。臨床の現場で多くの人の心の痛みに向き合ってきた精神科医さわ先生に、本書の魅力と心を回復させる方法について話を聞いた。(取材:ダイヤモンド社・林えり、構成・文:照宮遼子)

【精神科医が教える】「しんどい」「もう無理」…絶望的な状況のときに、心を立て直す「3つの方法」とは?Photo: Adobe Stock

方法1 「幸せに生きる」と決める

――うまくいかない時期は、将来が不安になったり、「何をやってもムダだ」とネガティブな気持ちに飲み込まれやすくなります。負の感情に巻き込まれているとき、どうすれば抜け出すことができますか?

精神科医さわ(以下、さわ):私は「人生は幸せになるためにある」と信じていて、5年前に「幸せに生きる」と心に決めました。根拠はなくていいと思ってるんですよね。ただそう決めることで、不思議と心が幸せを選ぶ方向に動けるようになっていきました。

――そうなんですね。幸せな気分でいたいのに、ネガティブなことばかりに目が向いてしまう、といったときにはどうすればいいでしょうか?

さわ:まず、私は「この世は愛と優しさにあふれている」という前提で生きています。そう思っていると、不思議と日常の中にある優しさに気づきやすくなるんです。

たとえば、駅員さんがニコッと笑ってくれた、そんな瞬間にも自然と目が向くようになる。同じ景色でも、どこに意識を向けるかで、見え方は大きく変わります。

――前提を変えると世界の見え方も変わるのですね。昔からそのように考えてこられたのでしょうか?

さわ:いいえ、まったくそんなことはありません。私も、離婚や子育て、親との関係でたくさん悩んできました。カウンセリングを受けたり、学んだりする中で、少しずつたどり着いた感覚です。

【精神科医が教える】「しんどい」「もう無理」…絶望的な状況のときに、心を立て直す「3つの方法」とは?精神科医さわ先生 写真:照宮遼子

方法2 「自分の心の痛み」をしっかり感じる

――「幸せに生きる」という決意で人生が変わっていくんですね。

さわ:はい。もちろん、嫌なことがあったときは、悩んでも、不安になっても、ムカついてもいいんです。大事なのは、どんな気持ちもちゃんと感じてあげること。

もし、「大切にされなかった」「悲しかった」と思ったなら、まずは正直に吐き出すのがいいです。

――「自分はダメだ」「もう嫌だ」と思っても、その気持ちを感じないようにすることもありそうですね。

さわ:本書でも「痛みを認めることが、向き合うための最善の方法だ」(p.61)とありますが、自分の痛みを否定せず、「そうだったんだね」と受けとめることが何より大切なんです。

お風呂で「ムカついた」と声に出せると心がラクになる

――感情をうまく出せないときは、どうすればいいんでしょうか?

さわ:おすすめなのは、「声に出してみる」ことです。誰かに聞いてもらうのもいいですが、ひとりでも大丈夫。お風呂の中などで「嫌だったな」「ムカついたな」と口にするだけで、ふっとラクになる人も多いんですよ。

――言えると心が軽くなりそうです。

さわ:「言えると、癒える」ってあるんですよね。感情を出し切って冷静になれたときに、「自分にも少し至らないところがあったかも」と気づくことがあります。たとえば、「言い方がきつかったかな」「もう少し落ち着いて話せばよかった」などと思う瞬間ですね。

「反省しすぎない方法」とは?

――反省できると次にも活かせそうです。ただ、反省しすぎて、「やっぱり自分はダメだ!」と落ち込んでしまうときはどうすればいいでしょうか?

さわ:反省は大切ですが、行き過ぎると「全部自分のせい」と思い込み、本来の責任以上のものまで背負い込んでしまいます。たとえば、何かをミスしたときに、上司が「お前には価値がない」といった人格否定をしてきた場合、それは自分のミスとは別問題で、相手自身の課題や価値観の問題です。

――相手の言葉を、そのまま受け取らないことが大事なんですね。

さわ:たとえ自分に至らない点があっても、人格まで否定される必要はありません。「自分の問題」と「相手の問題」を線引きすることが、心を守るうえでとても大切なんです。

――その「線引き」ができるかどうかで、心の負担も大きく変わっていきそうです。

さわ:人からの否定を「自分が悪い」と思い込むと、心に深い傷を残してしまいます。でも、きちんと線引きができれば、自分を守ることができます。まずは悲しさや悔しさを認めて、「こんなに傷ついていたんだな」と自分で気づいてあげること。それが回復の第一歩です。

方法3 「自分の弱さ」を認める

――つらさを抱え込みがちな人は、どういうふうにすると生きやすくなりますか?

さわ:ひとりで抱え込んでしまいがちな人は、「周りの人に助けてと言っていい」と伝えたいですね。たとえば、仕事でも「ちょっと手伝って」と口にするだけで、ふっと心が軽くなることがあります。

「できない自分はダメ」と感じていると、人に頼るのは難しいものです。「自分の弱さ」を受け入れられるようになると、不思議と誰かに頼れるようになっていくんです。

――先生ご自身は、どんなときに「助けて」と人に頼るようにしてますか?

さわ:私は仕事は得意だけど、家事は苦手です(笑)。でも「これは自分の弱点なんだ」と認めてからは、自然に人を頼れるようになりました。弱さを受け入れて助けを求めることも、自分を大切にする選択だと思います。

――人を頼れるようになると、つらいと感じることも減っていきそうです。

さわ:感情を受けとめ、人を頼ることができたとき、心は少しずつ回復へ向かいます。『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』には、その小さな一歩を踏み出すためのヒントがたくさん詰まっています。ページをめくりながら、自分の心と向き合うきっかけにしてほしいです。

(本稿は『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』に関する書き下ろし特別投稿です)

精神科医さわ(せいしんかい・さわ)
塩釜口こころクリニック(名古屋市)院長。児童精神科医。精神保健指定医、精神科専門医、公認心理師
1984年三重県生まれ。開業医の父と薬剤師の母のもとに育ち、南山中学校・高等学校女子部、藤田医科大学医学部卒業。勤務医時代はアルコール依存症など多くの患者と向き合う。発達ユニークな娘2人をシングルで育てる母でもあり、長女の不登校と発達障害の診断をきっかけに、「同じような悩みをもつ親子の支えになりたい」と2021年に塩釜口こころクリニックを開業。開業直後から予約が殺到し、現在も月に約400人の親子を診察。これまで延べ5万人以上の診療に携わる。患者やその保護者からは「同じ母親としての言葉に救われた」「子育てに希望が持てた」「先生に会うと安心する」「生きる勇気をもらえた」と涙を流す患者さんも多い。
YouTube「精神科医さわの幸せの処方箋」(登録者10万人超)、Voicyでの毎朝の音声配信も好評で、「子育てや生きるのがラクになった」と幅広い層に支持されている。
著書にベストセラー『子どもが本当に思っていること』『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』(以上、日本実業出版社)、監修に『こどもアウトプット図鑑』(サンクチュアリ出版)がある。