【解説】課題解決の鍵は「逆転の発想」にあり

菊池寛のこれらの発明は、単なる雑誌作りのテクニックに留まりません。現代のビジネスパーソンが直面する課題を乗り越えるための、普遍的なヒントに満ちています。

「座談会記事」の発明は、まさに逆転の発想の勝利です。

高名な作家に「原稿を書いてもらう」という正攻法が通用しないという課題に対し、彼は「リラックスした場で自由に話してもらう」という全く新しいアプローチを考案しました。これは、相手の負担を軽減し、むしろ付加価値(高級な食事や酒)を提供することで、協力を引き出すという見事な課題解決モデルです。

私たちのビジネスシーンにおいても、行き詰まった際には「やってもらう」から「やってもらいやすい環境を整える」へと視点を変えることで、活路が開けるのではないでしょうか。

「人間臭さ」こそが最強のコンテンツになる

一方、「ゴシップ記事」は、人間心理を巧みに突いたブランディング戦略の原型と言えます。文豪たちの完璧な作品の裏にある「腕力〇」「性欲二〇」といった人間臭い一面をあえて見せることで、読者の共感と強い興味を喚起しました。

これは、現代のマーケティングにおけるストーリーテリングそのものです。

企業や個人のブランドを確立する上で、完璧でクリーンな情報発信だけが正解とは限りません。時には、計算された自己開示や人間的な弱みを見せることが、かえって顧客やファンとの強固な信頼関係を築くきっかけとなり得るのです。

菊池寛が示したのは、常識を疑い、人間の本質を見抜くことの重要性でしょう。彼の編集者としての慧眼は、変化の激しい時代を生き抜く私たちに、今なお多くの示唆を与えてくれます

※本稿は、『ビジネスエリートのための 教養としての文豪(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。