サブアカ、いくつ持ってます?
作家で元「チャットモンチー」ドラマー高橋久美子さんの著作『いい音がする文章』の中から、SNSとリアルの「共通点」と「相違点」について書かれた部分を抜粋して紹介します。(構成/ダイヤモンド社 今野良介)

みんな「アカウント」を切り替えて生きている

SNSの世界は、同時に十数ヶ所の会場でライブが行われる大阪「ミナミ・ホイール」のフェスに近いものを感じる。バンドマンの登竜門とも言われ、私たちもデビュー前はそこに出ることを目標としていた。

観客は、ライブ途中でも自由に会場を行き来することができるので、シビアでもあった。人気があれば入場規制がかかるし、なければ数人ということだってありえるのだ。

SNSの中も、互いに影響を受け合い共鳴し合えばリポストやいいねをするギグである。フェス会場のように各々の音を鳴らしているように見えて、オリジナルの音だけではない。

自分の音は鳴らさずにリポストしかしないコピバン派の人も多いし(コピバンとて自分の音だけど!)、ステージに本当の顔を出したくないからアカウントを何個も持って自分を使い分けている人もけっこういると聞いて驚いた。

SNSにはミナミ・ホイールのようなオーディションがない。よってフィルターがかかっていないのがおもしろいところであり、危険なところでもある。

実際、そんなことしなさそうな知人も4つのアカウントを使い分けていて、私が知っているのはその中の1つだけである。

あと3つのアカウントでは一体どんな顔をもっているのか、大変興味深いのだけれど、そっとしておいている。友人の話によると、鍵アカを含めて15個以上持っている人もいるとか。

「単一アカウントで通しているほうがキモい」という声もあって、そ、そうかも……と納得してしまった。

人はコミュニティによっていくつもの自分が混在している。

SNSのアカウントを「15個持ってる人」と「1つで貫き通す人」どちらが不自然か?Photo: Adobe Stock

私だって、仕事仲間の前で鳴らす音、家族の前で鳴らす音、バンド時代の友人と会ったときに鳴らす音、大学時代の友人に鳴らす音、農業仲間に鳴らす音、愛媛の近所の人に鳴らす音、東京の近所の人、親戚の前、夫の実家、親しい友人の前……今パッと思いついただけで、10個もあるやんか。

性格を変えるということではない。変えようがないもの。というよりは、話す内容とか言葉遣いとかを変えている。自分を自然に使い分けているということですね。

最近は、年配の親戚や父まで私のXを見てると言っていたので、こえー! と思って、前よりはブレーキをかけるようになった。昔は若者しか使いこなせなかったスマホだけど、今は父世代もみんな見てるからなあ。

油断大敵でございます。