愛知県岡崎市。この人口38万人の地方都市に、とんでもない成果をあげている中小企業相談所があります。立ち上げから12年で累計4400社、2万9000件以上の相談を受け、実際に新規事業・新商品となった案件は1000件超。相談をしたいという企業は1か月以上先まで予約で埋まっている状況です。
この異例の成果を出しつづける「オカビズ」の初代センター長として長年活躍してきたのが、秋元祥治氏です。秋元氏はオカビズに加え、ベンチャーや大企業・大学(武蔵野大学アントレプレナーシップ学部)でも活動し、さまざまなビジネスに伴走。これらの経験を通じて、「自分だからできる仕事」は才能や特別な環境がなくても誰にでもつくれると確信するに至りました。
そのための知見とスキルのすべてをまとめた書籍が、『自分だからできる仕事のつくり方』です。LINE ヤフー株式会社代表取締役会長・川邊健太郎氏、『エフェクチュエーション』の著者・吉田満梨氏の両氏からも絶賛された同書から、1つの事例を公開します。
 

『自分だからできる仕事のつくり方』1イラスト:浅妻健司

暇をもてあましていたメッキ屋は、なぜオンリーワンの仕事をつくれたか

「自分らしい仕事」を見つけられる人とは、どんな人なのでしょうか。

 ひと言でいえば、「観察」を起点に「発想」し、「行動」できる人。これが私がこれまで無数の「オンリーワンの仕事」をつくる人と付き合ってきての結論です。

 観察力に優れ、いいと思ったことはすぐに実行し、得られた結果をもとに発想する。この3つがシームレスにつながっていると、「自分にしかできない仕事」は自然と生まれてきます。

「え、それってやっぱりジョブズみたいな人なんじゃないの?」

 そう思っている人のために、小さなメッキ工場の事例をご紹介します。

 オカビズには、本当にいろんな相談が毎日寄せられます。ある日、オカビズの門を叩いたのは、渋谷大輔さん。シブヤメッキというメッキ屋さんを創業したばかりの若手経営者で、ご夫婦ふたりだけでお仕事に取り組んでいました。そんな渋谷さん、席に着くやいなや、

「やばいんですよね。売上が上がんなくて、やばいんですよ」

 真空蒸着メッキという技術ひとつで部品メーカーから独立し、自動車の試作用のメッキ加工を手掛けていたのですが、仕事がなさすぎて、隣の西尾市からオカビズにやってきたというのです。

 どんなときも、相手のいいところを引き出すのがオカビズ流。『自分だからできる仕事のつくり方』の中に出てくる「強みの類型」や「リフレーミング」を駆使して、渋谷さんの話を聞いていきます。するとふと、とんでもない話が出てきました。

「暇すぎて、身の回りのものをメッキしてみてるんですよ」

 聞けば、自動車のパーツだけでなく、バイクのヘルメットやコンセントカバー、果ては蟹の甲羅のようなものまで、とにかくメッキ加工してインスタグラムに上げていたのです。

 暇すぎて技術を無駄づかいしている―そうとしか聞こえないこの話に私は反応し、気づけばこう切り出していました。

「デコトラってあるじゃないですか?」

 きょとんとする渋谷さんでしたが、私の説明を聞くやいなや、そうか! という顔で急いで帰って行きました。

 デコトラ(デコレーショントラック)とは、その名の通り、大型トラックの運転手がさまざまな装飾によって、自分だけのトラックをつくりあげていく世界。実は専門雑誌もある、立派なマーケットです。デコトラの乗り手にとって、究極のオリジナリティとは、オーダーメイドにほかなりません。

 その後、渋谷さんがやったのは、大型トラックの内装材やパーツをメッキ加工して、インスタグラムにあげまくる、というシンプルなもの。ハッシュタグをつけまくって、デコトラ界隈にアピールしていきました。

 単にパーツを購入するだけでなく、メッキをすることでオリジナルの、自分だけのパーツを手に入れられるということで、狙い通りデコトラ界隈から大反響。暇すぎてやっていた「いろんなものを分解してメッキ加工する」ということが、渋谷さんにしかできないオンリーワンの仕事につながっていったのです。

 その後、大手自転車メーカーなど大企業からの受注も獲得し、一時受注停止となるほどに。BtoCだけでなくBtoBへも手を広げるなど、快進撃は今も続いています。