こうした流れを捉える視点は、いわゆる「トラクション」の初動を見極める上でも重要です。
「トラクション」もクルマ用語からビジネスに転用された言葉で、もともとはタイヤが路面をグリップし、エンジンからの駆動力を伝えてクルマを前に進める力を意味します。そこに事業が前進している手応えや兆候という比喩的な意味が加わり、ビジネスでも使われるようになりました。
プロダクトの立ち上げ期には、「数字はまだ小さいが、継続率が上がっている」「紹介経由で少しずつ利用が広がっている」といった“小さいながらも確かな動き”を捉えることが重視されます。また、事業の初期段階に限らず、成長期であれば「新たなセグメントでの伸びの兆し」、成熟期であれば「離脱の前兆」や「価値再発見の兆候」など、あらゆるフェーズで、どこに動きがあるかを捉える視点が求められます。
ここで欠かせないのが、「先行指標(兆し)」と「遅行指標(結果)」の考え方です。売上や利益といった遅行指標だけを見ていても、変化の兆しには気づけません。ユーザー数の伸び率や継続率、紹介経由の流入割合といった先行指標を追えば、将来の変化を先回りして察知できます。現在値が低くても、将来の成長につながる「傾き」を読み取る視点が事業では求められるのです。
このように、KPIは「できた/できなかった」を判定するゴールではなく、変化の兆候を観測し、仮説を立て直す出発点です。KPIを「問いの起点」と捉え直せば、数字との向き合い方が変わります。そしてその問いの質を高めるには、何をどう見るかが極めて重要です。
「計測」と「観測」はどう違う?
数字を見る2つの視点
KPIをうまく活用できない理由の1つに、「測るべき数字」しか見ていないという問題があります。実際の現場では、戦略的に設計された数字だけを見ていても、肝心な変化の兆しを見逃してしまうことがあります。
ここで必要になるのが、「測る(計測)」と「観測する(観測)」という、2つの異なる視点です。