展望レポートの物価見通しは上方修正
それでも企業や家計の実感とは乖離
7月決定会合では、日米関税合意などを受けて新たに改訂した「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)が公表され、日銀は、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年度比上昇率の見通しを、2025年は2.7%、26年は1.8%、27年は2%とした。
この見通しは、これまで公表されていた見通し(4月展望レポート)からは各年ともそれぞれ引き上げられてはいる。
だが日銀の他のいくつかの調査の結果よりは低い。
「短観」の最新調査(2025年6月調査)では、企業(全規模全産業)の物価見通しは、1年後が+2.4%、3年後も+2.4%だ。5年後は2.3%だ。このように、中期的にも2%を超え2%目標は達成されることになっている。
また、8月14日に発表した「生活意識に関するアンケート調査」(第102回、25年6月調査)によると、「5年後の物価が現在と比べ毎年、平均何%程度変化すると思うか」の問いに対する回答は、平均値が9.9%上昇、中央値が5.0%上昇だった。
この調査の回答者は、「物価」という概念を正確に消費者物価指数とは捉えておらず、食料など身の回りの購入品の物価と捉えている可能性が高いが、それにしても、展望レポートの数字とは大きな開きがある。
「基調的な物価上昇率」何で判断?
「BEI」が参照されている可能性
日銀が、いかなる指標を見て、「基調的な物価上昇率」や「中長期の予想物価上昇率」を判断しているのかは、5月のコンファレンスの植田総裁の説明では、はっきりしたことは分からないのだが、今回の「展望レポート」では、図表40でいくつかの指標を挙げているので、それが参考になる。
そこで挙げられている指標の一つが、期待インフレ率を測定するBEI(Break-even inflation rate:ブレイク・イーブン・インフレ率)だ。
これは、次式によって定義されるものだ。
BEI=10年国債名目利回り-10年物価連動国債利回り
この指標は、日本相互証券によって計算されている。物価連動国債というのは、物価の動きに連動して元金額や利払いが変動する国債だ。
最近のBEIのデータを見ると、2025年7月29日時点では1.521%程度でしかない。これは日銀が物価目標とする「2%程度」よりかなり低い値だ。
したがって、BEIを見る限り、インフレ期待はまだ十分な高さになっていないと判断することができる。そして、インフレ期待をさらに高めるために、当面は政策金利を引き上げないという判断がされることになる。