違和感を覚えるなら
やるべきことは3つ

 問題なのは、この組織アイデンティティが「慣性」を生むことです。慣性は、現状を強く肯定することにつながります。その結果、社員は創造性を欠くようになり、イノベーションが起きなくなり、リスクテイクをしなくなり、現状を守ろうとするあまり、時には不正を働くことさえあります。

 古参社員が「これって本当にお客さんのためになっているんですか」と声を上げるとき、実際には自分が気持ち悪いと思っているだけなのですが、自分のやり方、自分の過去にやってきたやり方が否定されているかのように、自分がおかしいと言われているような気分になるのです。

 しかし、人数が少ない創業時には、単一だった組織アイデンティティが、拡大期に多面的になっていくのは自然なことです。10人なら、みんな共通のアイデンティティを持っていたかもしれませんが、100人、1000人になったら、それぞれが持つ「うちの会社らしさ」は変わってきて当然です。

 では、組織の変化に違和感を覚えた時、どのように対処すればよいのでしょうか。以下の3つのステップを踏むことをお勧めします。

 第一に、違和感を無理に否定するのではなく、それを冷静に検証することです。

 違和感を感じること自体を「変化を受け入れられない自分」「新潮流についていけない自分」のせいだと思う必要はありません。ある個人が違和感を覚えるのは、組織全体として見たときの「成長痛」のようなものです。

 大切なのは、なぜ、どこに違和感を覚えたのだろうかということを言語化してみることです。例えば、会社が大きくなって、昔は全社で実施していた朝礼がなくなり、現場で活発だった雑談が基本的に禁止されるようになり、話すときは会議室に入るというルールになったとします。

 この変化に対して強烈な違和感を覚えたとしたら、なぜ自分はそう感じたのだろうと考えてみると、本質的には「社員相互の信頼と連帯の強さがうちの会社らしさだった」ということに気づくかもしれません。

 第二に、自分が持っている「うちの会社らしさ」を守るべきかどうかを、懐古主義的な感情としてではなく、この組織にとって意味があるか、今、この組織に必要かどうかで判断することです。

 先ほどの例で言えば、社員間の信頼と連帯感の強さという価値が、何らかの別の形で担保されていれば、それを受け入れられるはずです。全社朝礼や雑談という「形」に固執せず、その奥にある「信頼と連帯」という本質的な価値を重視するのです。