「新しいルール通りに働くことが正解か?」
古参社員が感じる違和感の正体

 組織は成長するとともに、そのマネジメント方針も変わっていくものです。

 例えば、会社の創業からまもない時期は、10人や30人規模で、社長が稼ぎ頭のハイパフォーマーとして指揮を執り、明文化されたルールやマニュアルなどは存在せず、問題が起きれば、その都度社長が臨機応変に対応し、みんなもそれに従っていました。リアルタイムの直接指導が可能だったのです。

 しかし、組織が100人、400人、1000人と拡大していくにつれて、どんどん制度が増え、マニュアルが積み上がっていきます。そんな時、古参社員は窮屈さや疎外感とともに、「ルール通りに働くことが、本当にお客さんのためになっているんだろうか」と感じてしまいます。

 一方で、組織が大きくなってから入ってきた社員からすると、こうした制度や仕組みがあるのは当然のことで、何ら疑問を感じることはありません。

 では、古参社員はなぜこれほど強い違和感を覚えるのでしょうか。それは、長年身を置いてきた組織への愛着や一体感が、変化によって揺るがされるからです。

「うちの会社って、前はこうじゃなかったのに」という思いは、単なる懐古主義ではなく、自分のアイデンティティの一部が否定されたような感覚から生まれているのです。

なぜ特に窮屈さを感じるのか 
組織アイデンティティの揺らぎ

 古参社員が組織の変化に対して強い違和感を覚える理由を理解するには、心理学における「組織アイデンティティ理論」が参考になります。

 組織アイデンティティとは、メンバー自身の主観で見たときに、その組織には、他とは違う性質がある、しかも、それはすぐに変わるものではなく、その組織の本質を表すものである、ということです。

※ Albert, S., & Whetten, D. A. (1985). Organizational identity.
In L. L. Cummings & B. M. Staw (Eds.), Research in Organizational Behavior, 7, 263–295.
Albert & Whetten によると、組織アイデンティティとは、以下の3点を満たす特徴の集合である。Central(中核的な特徴):組織の本質を成すものであり、Enduring(持続的な特徴):時間を超えて連続しており、Distinctive(独自的な特徴):他の組織と明確に区別されるもの。