短期間の間に15kgも体重が減って認知機能の低下も進んだ母親を心配した長男が、インターネットで調べて当院へ連れてきたらしい。

効かない薬を飲み続け
症状はむしろ悪化していく

 私は、これまでの経過と幻視などの症状から、うつ病ではなくレビー小体型認知症ではないかと考え、いったん、全ての薬をやめることを提案した。

 点滴で水分と栄養素を補給したところ元気になって帰って行ったが、夜になると不安が強くなるのか腹痛を訴え救急車を呼び、近くの病院へ運ばれて「異常ありません」と指摘されて帰るということを三日三晩繰り返した。

 家族が「とても家ではみられない。夜になると、腹痛と不安感がひどくて本人も眠れない」と訴え、結局、当院に入院して治療することになった。

 この患者は、言葉をはっきり発音する喉や舌の機能が低下する構音障害をきたしており、顔面けいれんや体の硬直がみられた。不安感、腹痛、食欲不振、脱水症状、不眠などの症状もあり、レビー小体型認知症によるせん妄(意識障害の一種)状態と診断し、精神心理症状と行動障害(BPSD)の治療を開始した。

 食欲がないので、流動食から開始したところ、数日後にはごくごく飲むようになり食欲が回復した。レビー小体型認知症による味覚障害もあったので、ビタミン、ミネラルも補給したところ、徐々に元気を取り戻し、入院から約2週間で、レビー小体型認知症によるBPSDはなくなり、自力で歩けるようになった。

 レビー小体型認知症では、認知機能の低下や幻視などが現れる前に、抑うつ症状や睡眠障害、味覚障害などの症状が出ることが多い。そのため、うつ病や不眠症として向精神薬で治療されてしまうことも少なくないのだ。

うつ病治療をやめた途端
笑顔と健康を取り戻した

 71歳だった別の女性も、65歳になった頃から精神科で躁うつ病だと診断され、躁うつ病の治療薬を服用していた。

 71歳のときに転倒し骨折して入院。