その後も自殺を図ろうとしてリストカットをしたり、誤嚥(ごえん)性肺炎を起こしたりして入退院を繰り返していた。
当院に来院したときにも、車椅子に座った状態で「生きていくのはもう嫌だ」と訴えた。確かに、認知機能は低下し、被害妄想が強く、暴言を吐き、手が小刻みに震え、体が硬直して歩行は困難だった。

前述のように、手が震える、動作が遅くなるなどのパーキンソン症状はレビー小体型認知症に特徴的な症状だ。私は、レビー小体型認知症を疑い、向精神薬の服薬をすべてやめてもらった。
レビー小体型認知症の患者は、向精神薬などの薬が効きやすく、そのために動けなくなっていることもある。
約2週間後、向精神薬をやめて栄養状態もよくなったこともあって、レビー小体型認知症によるさまざまな症状が劇的に改善して体の硬直は取れ、すたすた歩けるようになった。
手の震えは残っているが、無表情だったときとは別人のような笑顔を見せるようになり、1カ月後、自宅へ帰って行った。それから数年経っているが、いまも、身の回りのことは自分でやりながら自力歩行で生活している。
レビー小体型認知症の場合も、きちんと診断されず、うつ病や躁うつ病などと診断され薬漬けにされると、症状が悪化して別人のようにされてしまうことがあるのだ。