私も何らかの運動中に急死した人を解剖する機会があり、ジョギング中の死亡例もまれにあります。その多くは中高年や高齢者の男性に多いという印象です。
人が走るとき、肺や筋肉などに血液を供給するため、心拍数が上昇します。これに伴い、心臓が必要とする血液の需要量は増加しますが、血液の供給量が見合わないと心臓に十分な血液が届きません。
心臓に血液を供給する「冠状動脈」は大きく左と右の2種類がありますが、左側の血液供給量が低下すると心臓の動きが悪くなり、供給が止まると「心筋梗塞」になります。また右側の血液供給量が低下すると、心拍数を調整する「特殊心筋」の機能が低下して「心室細動」という致死的な不整脈を生じさせます。
「動脈硬化」がなければ、迅速なAEDの使用によって一命を取り留められるかもしれません。しかし、多くの高齢者は動脈硬化が進行していることが多いため、AEDに反応せず亡くなってしまう可能性も高いのです。
過剰に速く長く走ると
死の危険性は97%も上昇!
ジョギングと死亡との因果関係を調査した論文では、ジョギングの時間が長く、頻度が高く、走る速度が速ければ速いほど、死ぬ危険性が高くなると報告されています。週2~3回の軽いジョギングは、死の危険性を78%低下させる一方、過剰に速く走ったり長く走ったりすると、死の危険性はなんと97%も上昇すると言われています。
大会に出場するとなると、やはり完走を目指したくなるでしょうし、少しでもタイムを縮めたいと心理的に自分を追い詰める人もいるでしょう。その際、本人も気づかないうちに無理をして、心臓に負荷をかけてしまうのです。
あまりにも過度なジョギングは、健康を損なうばかりでなく、死の危険性をも高めてしまいます。十分な準備をして、心理的にも身体的にも負荷をかけすぎないように、余裕を持って取り組んでほしいものです。
・心身に負荷がかかる無理なジョギングはしない。
・無理して速く走らず、余裕を持った速度で走る。
・長い時間走らない。