山には危険がいっぱい
山菜を採りに行って死ぬ

 雪が溶けて春の季節に差しかかると、スーパーや道の駅などに山菜が並ぶようになります。タラの芽やふきのとう、わらび、こごみ、うるい、ぜんまい、行者にんにく…。販売目的でこうした山菜を採る人は、経験豊富ないわゆる「プロ」。おそらく安全対策もばっちりでしょう。

 しかし、自分や家族が食べるために、知識や経験の浅い、いわゆる素人が、山菜採りのために山に入って事故に遭うことがあります。その多くは高齢者です。

 私のように東北地方で仕事をする法医学者は、山菜を採りに行って死亡した高齢者の解剖をする機会がとても多いのです。「そんな量、食べ切れないでしょう」と言いたくなるくらい大量の山菜を採っている際に、山中で死亡する高齢者があまりに多く、私たちの間では「年を取ると山菜を採りたくなる病気を発症する」と、まことしやかに囁かれています。

 山菜が自生する山の中には、さまざまな危険が潜んでいます。

 斜面などで転倒や転落したり、山菜採りに集中しすぎて遭難したり、熱中症や低体温症を起こしたり、持病が悪化して身動きが取れなくなったり……。さらに、山の中では電波も届きにくく、携帯電話で助けを呼べません。

 蚊やダニ、蜂に刺される、ブヨやヒルに噛まれる、などの虫による傷害もあります。虫はウイルスや原虫などを媒介することがありますし、蜂やブヨに刺され、「アナフィラキシーショック」という強いアレルギー反応を起こして命を落とす可能性もあるので、十分な注意が必要なのです。

昨今話題になっている
「クマ被害」にも注意

 そして、最も気をつけるべきは「クマ」です。

 冬眠明けの春先、クマは食べ物を求めて山中をうろついています。それが山菜採りの時期と一致するため、遭遇確率が高いのです。

 近年は温暖化の影響か、冬眠しない、もしくは冬眠期間が短いクマもいるようで、クマ被害件数の増加が報告されています。

 クマの持つ物理的エネルギー、つまり攻撃力は相当なもの。体長が1メートルに満たないコグマであっても、簡単に木に登れる前足と、太く長く尖った爪を持っています。