会社員の突然死や自殺はなぜ起こるのか――。職場で起きる「原因不明の死」は、他人事ではない。それは、亡くなった本人の遺族はもちろん、残された上司や同僚の心にも、長年にわたって暗い影を落とし続ける。

 今回は、死因が特定できない会社員の突然死や自殺について、警察から依頼を受け、遺体を解剖し、死因を特定する医師を取材した。法医学を専攻する杏林大学の高木徹也准教授は、不審遺体の解剖数が非常に多いことで知られる。

 高木准教授が法医学・医療監修を行なったドラマや映画は、多数に及ぶ。2011年3月11日の東日本大震災直後には、警察庁からの依頼で宮城県や岩手県などの遺体安置所で検死を行った。著書『なぜ人は砂漠で溺死するのか?』 (メディアファクトリー新書)では、会社員の突然死や自殺などについて、遺体という観点から分析している。

 会社員が突然死や自殺などをした場合、その遺体の状況、遺族や会社の動きについては知られていないことが多い。関係者が「死」をタブー視し、積極的に情報公開が行われないから、原因不明の死が繰り返されると見ることもできるのかもしれない。今回は、タブーとなっている「会社員の死」を法医学者とのやりとりの中で浮き彫りにしていくことで、悶える職場の断面にスポットを当てたい。


突然不整脈に襲われ、帰らぬ人に
原因が特定できない会社員の「死」

杏林大学の高木徹也・准教授

筆者 最近は、会社員が自殺や病気で死亡し、死因を特定できないケースが増えているのでしょうか。

高木 ここ(杏林大学法医学教室)に運ばれてくる遺体を私が診る限りでは、そのような事実はない。今は、多くの会社が社員に健康診断を受けるように働きかけている。メンタル面でもケアが進んでいる。

 私が医師になった20年ほど前に比べれば、会社は社員の健康管理にかなり注意を払うようになっている。会社員としては、ある程度早いうちに病気などを見つけることができ得るのではないだろうか。