以前私が見たクマに襲われたご遺体は、骨にまで達する深い傷を負っていました。傷の形状がクマの爪の形をしていたことから、クマの前足で襲われたものと判断されました。クマからしてみれば「前足でひっかいた」程度の攻撃であっても、人体にとっては皮膚をえぐられるくらいの「高エネルギー外傷」を被るのです。
「高エネルギー外傷」とは、車や電車にはねられるなど、人力ではなし得ないほどの強大な物理的エネルギーが人体に加わったことで生じる損傷のこと。クマに襲われるのは、これと同じくらいの衝撃なのです。
とにかく、クマに遭遇しないに越したことはありません。そのためにできる対策をしっかり講じたうえで、万が一、遭遇してしまったときの対処法も事前に十分検討してから、山に入ることをおすすめします。
・入る山の下調べや緊急時の対応策など、事前の準備をしっかり行う。
・1人ではなく複数人で行動する。
・そもそも、食べ切れないほどの山菜を採らない。
高山病を発症して
登山で死にかける
雄大な景色を楽しみながら歩き、さらに登頂したときの達成感がたまらない「登山」や「ハイキング」を趣味としてたしなんでいる方も多いでしょう。健康維持に熱心な高齢者にも人気がありますよね。
登山者が増えている一方で、警察庁の統計によると、2023年は過去で最も遭難者が多かった年でもありました。そして、遭難者の49.4%、死亡者・行方不明者の67.2%が60歳以上なのです。
山にはさまざまな危険が潜んでいます。転倒、転落、滑落、熱中症、低体温症、虫による感染症、動物による外傷のほかに、落雷や雪崩、火山の噴火などに巻きこまれる危険性もあります。
1967年、高校生の登山パーティーで、11人が落雷により死亡した西穂高岳落雷遭難事故は有名です。雷の発生は予測しにくく、標高が高くて天気が変わりやすい山中では特に気をつけなくてはいけません。落雷損傷は感電に加えて打撃的な作用を伴うため、頭蓋骨骨折や脳挫傷が生じることでも知られており、命を落とす危険性が極めて高い災害です。