
陸上スプリント種目の世界大会で日本人初のメダル獲得者の為末大さんは、シドニー(2000年)、アテネ(2004年)、北京(2008年)のオリンピックに出場し、男子400mハードルの日本記録保持者でもある。世界中から注目を浴びる大舞台で、どのようにパフォーマンスを高めたのか。ノンフィクション作家の笹井恵里子さんが、ビジネスパーソンがプレゼンや交渉時など力を発揮しなければいけない場面で「勝負強くなれる」秘訣を聞いた。(ノンフィクション作家・ジャーナリスト 笹井恵里子)
ここ一番で力を発揮できるか
「勝負強さ」の正体とは
プレゼンや交渉時など、ビジネスではここ一番で力を発揮しなければいけないタイミングがありますよね。
もちろんスポーツの世界も同じです。
私は競技生活を通して「勝負強さ」とは“期待値コントロール”だと思いました。緊張している場合は「うまくやろうとしすぎている」ことが多い。「その日の自分にできることしかできないんだ」と思えばいいのです。
それでも緊張が手放せない時は、心の中で「自分はそんなに大した人ですか」と問いかける。私は選手時代、本番前に「ここまでこれただけでも十分じゃないか。あとはやれることをやったらいい」と自分に言ったこともありました。
自分の「最も人に知られたくないこと」を
認識しておくといい
緊張は、プレッシャーを感じる時にも起きてくると思います。
人が最も恐れていることは、こう見られたい「理想の自分」と「本来の自分」の落差を知られることではないでしょうか。自分のすべてがバレている場では、プレッシャーなんてないんですよ。
ですから古くからの我々の世界、体育会ではこういうものを引っぺがしていきました。外見の特徴にちなんであだ名をつけたり、本人が気にしていそうなことをわざと指摘したりして、いじられ慣れをするんです(笑)。そうやって取り繕おうとする自分をバカにし、なるべく等身大で生きていく。芸人さんの世界にも近いのかもしれません。
ですが一般的にはそういった手法は逆効果になる場合もあるかもしれませんから、あまりお勧めできません。ただ、「自分が何を最も人に知られたくないと思っているか」を認識しておくといいでしょう。自分の“弱い部分”を認識するだけでも客観的な視点になり、プレッシャーの世界から一歩身を引くことができます。
「思ったよりも自分は人を見ていない」ことに気がつくことも重要ですね。