「自分の心のうちを推測されている」と
考えるから、プレッシャーを感じる

 話す時に言葉がつまってしまっても、無理に埋めようとしないことです。少しくらい沈黙が続いても、周りの人は「何か考えているのかな」くらいにしか思っていない。人は自分の心を読んでいないし、自分の姿を適当に眺めているだけだと思うことです。

 実は「自分の心のうちを推測されている」と考えるから、すごくプレッシャーを感じるんですよ。試しに家族と話す時、5秒くらい間を空けてみてください。1、2、3、4、5秒……どうでしょう。焦りを顔に出さなければ、それほど不自然さはないですよね。

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 そしてパフォーマンスを発揮するには、「集中力」と「適度なゆるさ」が必要だ。

 気合を入れた時ほど成果がでない経験はないだろうか。出版業界では取材を重ねて、充実した誌面に仕上げた時ほど「売れない」という時がある。一方で見た目にも内容的にも「余白」があったほうが、売り上げが伸びたりもする。
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 職業によって「適切なピント合わせ」があると思うんです。

パフォーマンスを発揮するための
集中の度合いは

 例えば陸上競技は「ぎゅっと絞ったほうがいい」と言われています。周りを視界に一切入れず、ゴールしか見えていない状態。だからこそ集中して競技に臨めるわけですね。ただ逆にいうと、周囲からの意見が入りにくく、「視野が狭い人間」になりがちです。陸上競技選手であればいいのですが、もし政治家が一点のみしか目に入らず、世の中の意見が全く聞こえなかったらマズイでしょう。

 ですから職業によって、どれくらい世の中の声を拾うとパフォーマンスが高まるのか、適切なピント合わせをしてほしいと思います。スポーツの世界や研究者は視野が狭いほうが良さそうですが、世間にいるお客さんを相手にする仕事は、意識してでもピントの合う範囲を広げることが必要かもしれません。

 それはどうすればできるのか? 難しいですね。アドバイスとしては力を抜こう、いい意味で適当にやってみようという感じでしょうか。

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 正反対のピント合わせの例として、「スタートアップ」の経営者と、「ベンチャーキャピタリスト(事業に資金を提供する人)」を例に挙げる。

 スタートアップは、先進的な技術やアイデアを強みに、ゼロから短期間で急激な成長を目指すのに対し、ベンチャーキャピタリストは既存のビジネスモデルをベースにスケールを拡大して売り上げを増やせるよう、資金提供を行う。
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 簡単に言えば、スタートアップの経営者は「これは絶対にうまくいくんだ」と“自分を信じる職業”で、ベンチャーキャピタリストは広く世の中を見渡し、トレンドを感じながら事業に投資する“自分を疑う職業”といえるでしょう。自分は「これがいい」と思うが本当にいいのだろうか、世間は同じ感覚を持っているだろうかという疑いを持つ、といいますか……。

 私は選手時代からコーチ的な客観的目線が強かったんです。練習をしている時、勝算がある時にも「エビデンスは?」とつい聞きたくなってしまう(笑)。だから私は選手よりコーチが向いているのでしょうし、スタートアップの経営者よりベンチャーキャピタリストのほうが合っているのかもしれません。