中年男性の恋、大人ドラマの風情ある演出

八木は帰るが、雨が降ってきているので、蘭子は追いかけ、傘を差し出す。
「もう八木さんの会社には行きません」
「そんなこと言わないでくれ」
妻夫木聡が、若い蘭子との恋にギラギラ積極的ではなく、ややためらいながらも惹かれていくことを抑えきれない心情を醸し出している。瓶の蓋も一気には開けられないのは中年だからだろう。若き頃の豪だったらすぐに開いただろう。
枯れかかった、でもまだ完全に枯れていない、もう一度咲きそうな可能性を内包している中年男性の微妙な心理。傘を返そうとして、柄を握った蘭子の手を思わず握っている。
鮮やかな柄の傘を真俯瞰で撮って、傘の下のふたりを見せない演出が大人ドラマの風情。ただし、もう少し照明に凝ってほしかったかも。
さて。気にしてないと言いながら、落ち込む嵩。こんなことで落ち込む自分が情けないとのぶに語る。やなせたかしがどうかはわからないが、嵩は自分が中途半端だと反省するのだ。
のぶは、嵩を外に連れ出す。雨はあっという間に上がっている。
雨上がりの日差しのなか、葉っぱはキラキラしている神社の階段を走って登るのぶ。劇伴は『手のひらを太陽に』のアレンジバージョン。
元気に階段の上まで走って上がるのぶに比べ、嵩は動作が鈍く、途中で息が切れてしまう。
のぶは「嵩はいごっそうになれ」と励ます。「いごっそう」とは土佐のことばで、思い込んだらがんとして動かない、頑固な人の意味。のぶは「はきちん」として思い立ったらすぐ走るタイプだが、嵩はじっと踏ん張るタイプ。
それは昔、寛(竹野内豊)にも言われたことだった。
はちきん・のぶと、いごっそう・嵩。タイプの違う者同士、バランスがいいのかもしれない。
のぶが、漫画家集団の嵩への仕打ちをものすごく怒ってくれていたのを知っていて、それもきっとうれしいのだろう。自分は、素直に感情を出せないけれど、のぶが代わりに、激しく怒ってくれる。
第112回ののぶは久しぶりに活発だった。最近、すっかりおしとやかで、動きが少なかったが、やっぱりのぶは快活なのがいい。
雨上がりの澄んだ空気のなか運動した嵩は、少し気分が晴れ、やる気になる。これで漫画に挑戦するのだろうか。漫画、漫画と言いながら、ちっとも漫画に挑んでいないので、1回、思いきって挑んでほしい。彼は生活費を稼ぐ心配もいまはないようだし、まったくうらやましい環境にいるのだから。