わが国では見当識障害を認知症の重要な症状として取り扱っていますが、欧米ではあまり重要視されていない印象です。「DSM第5版」(編集部注/米国精神医学会による精神疾患の診断分類をまとめたもの)には、「見当識障害(disorientation)」という言葉が見当たりません。広義の記憶障害の中に含めているようですが、筆者は、見当識障害を独立した基本症状として取り扱うことが適切であると考えています。

発病から20~30年で
寝たきり状態へ移行

「知覚-運動系の障害」も重要な症状です。目で見た情報が手の動きに結びつかず、方向感覚や立体感も失われて正しく行動できなくなるという症状です。

 知覚-運動系の障害が現れると、スマホやプッシュフォン、ファックスやATMなどの機器がうまく使えなくなります。自動券売機で切符をスムーズに買えなくなるほか、ネクタイを結べない、服の着替えをきちんとできない、器具の使い方がわからなくなるなどの現象も含まれます。

 また、車のドアや家の玄関などの判別が困難となり、車に乗れずにドアの前で立ちすくむ、家の前に立ちすくむといったことも起きてきます。よく知っているはずの場所であっても風景の判別ができないため、どこを歩いているのかわからなくなってしまいます。

 アルツハイマー型認知症の人の脳血流SPECT検査では、頭頂葉の機能低下が明瞭に観察され、診断に役立ちます。MRIを用いた検査では、初期には異常所見を認めませんが、進行すると頭頂葉や側頭葉に萎縮が確認できます(図2-5)。

図表:アルツハイマー型認知症のMRI所見同書より転載
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 アルツハイマー型認知症は徐々に進行し、発病から20~30年で体の動きや発語が消え、寝たきり状態へと移行していきます(図2-6)。

図表:アルツハイマー型認知症の自然経過同書より転載
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