
過去や未来に思いをめぐらせ、愚痴や後悔や反省で頭がいっぱいになってしまうことは、誰にでもあるはずだ。しかし、一見何もしていないように思えるこの時間に、脳はフル活動しているのだという。「ぼーっとする」時間の知られざる役割を、脳神経外科医が解説する。※本稿は、伊古田俊夫『認知症とはどのような病気か 脳の構造としくみから全体像を理解する』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。
ぼーっとしている間に
活発に活動する脳領域とは
1997年、ゴードン・シュルマン、マーカス・レイクルらワシントン大学の研究グループは、安静にして何もしていない人の脳の活動状態について、新たな研究結果を発表しました。
文章を読む、手を動かす、計算をするなど、目的のはっきりとした活動をしているときには沈黙しているにもかかわらず、何もしていない“休息状態”に入ると俄然、活動を開始する脳の領域を見つけ出したのです。
その脳領域は、ふたたび目標の明快な活動を始めると沈黙してしまいました。ガンガン活動しているときには静かにしていて、のんびり休息しているときに活発に興奮する神経細胞のネットワークが脳内に存在している――そんな不思議な現象が発見されたのです。
従来の常識では、目的達成活動では脳は活発に活動し、休息時にはゆっくりと活動が低下するものと見なされていました。シュルマンは、1977年の時点ですでにこの現象に関する論文を発表していますが、あまりにも意外な結果であったためか、当初は研究論文の掲載を拒否されたと、レイクルがのちに回顧しています。