認知症でみられる病識の欠如は、この脳機構の障害によって説明可能ではないかと考えています。
アルツハイマー型認知症などでは、早期からデフォルト・モード・ネットワークの機能低下が起きていることが注目されています。
アルツハイマー型認知症の人の脳血流SPECT画像では、デフォルト・モード・ネットワークの部位に一致して脳血流の低下がしばしば認められます。
これは、自分について振り返る思考力の低下、すなわち見当識の障害が脳の画像によって裏づけられたことを示唆しています(図5-4)。

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脳の画像を見て
認知症を診断できる時代に
自分自身を適切に把握することができなくなるという認知症の病態を、脳の画像で確認できる時代、「脳から認知症をみる(見る、観る、診る)」時代になりました。

また、行動障害型前頭側頭型認知症でもデフォルト・モード・ネットワークの障害が認められ、それは「周囲を無視して我が道を行くような行動障害」「反省心の欠如」「脱抑制的な行動」などと関係することが示唆されています。
認知症の最も基本的な症状は、記憶障害と見当識障害です。記憶障害については海馬の研究が進み、深く理解されてきていますが、見当識障害についてはその脳科学的メカニズムが必ずしも明らかではなく、解明が遅れていました。
見当識障害をデフォルト・モード・ネットワーク障害の結果と考えることができるならば、認知症の病態に対する理解が大きく進むのではないかと期待しています。社会的認知の障害という新たな概念の導入によって、認知症の病態解明は大いに進展すると思われます。