愚痴や反省や後悔こそが
豊かな人生を築く基盤に
理路整然とした体系的な思考ではなく、とりとめのない思考をおこなう脳領域であるということがポイントで、このような思考を「さまよい思考(mind wandering)」とよびました。
過去と未来の自分を展望しながら、現在の自分を考えることもこの思考の特徴です。デフォルト・モード・ネットワークにはさらに、内省して自分の言動を振り返り、反省する機能も含まれているとしました。
安月給で働く青年をイメージしながら、デフォルト・モード・ネットワークのはたらきを具体的にみてみましょう。ふだんは弱音も不平も吐かず、つらい仕事をしている人も、仕事が終わってゆっくりとくつろぐときには、心の中にさまざまな思いが渦巻いているに違いありません。
〈安月給でこき使われて、ひどいもんだ〉
〈ノルマ、ノルマで大変だ。こんな会社辞めたいな……〉
〈ノルマ、ノルマで大変だ。こんな会社辞めたいな……〉
愚痴のようなこうした思いは、過去や未来を巻き込みながら徐々に高まっていきます。
〈ここを辞めても次の仕事があるかどうか心配だし、困ったな〉
〈10年後の自分はどうなっているのだろう?〉
〈10年後の自分はどうなっているのだろう?〉
思考はさらに、自分への反省や再起にも及びます。
〈自分には夢があったはずだ。どこで挫折したのだろう?〉
〈俺もだらしないな、もう1回挑戦してみようか〉
〈俺もだらしないな、もう1回挑戦してみようか〉
多くの人が毎日、心の中で大いに愚痴っています。とりとめのない思考に身を任せているうちに、やがて自分を振り返り、新たな道を探る思考へと深まっていきます。愚痴も反省も後悔も、人生を豊かなものへと高める大切な心の基盤です。
認知症になると
病識が欠如する理由
ときには現実を受け入れて我慢する、ときには勇気ある決断をして新たな旅立ちを開始する……、そのような自分についての思考をする脳領域こそ、デフォルト・モード・ネットワークです。仕事を遂行するための思考とは別のタイプの脳内ネットワークであり、私たちの人間的な営みを保障する脳機能です。
デフォルト・モード・ネットワークの日本語訳はいまだありませんが、「自己振り返り機構」「自己内省機構」ともいうべきもので、大切な知的能力の1つです。周囲からの批判を受け入れて反省することも、「自己振り返り機構」の成せる業です。