特に目を引いたのが『ガンダム』のキャラクターの扮装をしたコスプレイヤーたちです。現在と違って、コスプレ人口は非常に少ない。小牧さんが声をかけたのは、アニメ・マンガファンが集まる江古田の「まんが画廊」に出入りする若者たちを中心としたグループで、当時のコスプレの精鋭部隊です。

 ある日、私が編集部で作業をしていると、小牧さんがそのグループを編集部に連れてきて、イベントの打ち合わせを始めました。

 その時に現れたロックンローラーのような大学生に目を奪われます。アニメファンとは思えぬ雰囲気をまとった彼は、周りから「クリス」と呼ばれていました。そう、私の運命を変えることになる、永野護さん(編集部注/デザイナー。代表作は『ファイブスター物語』)との出会いでした。

 永野さんはアニメファンのイメージとは違い、おたく心とロックの心を同居させている若者です。ロッカーでありながらコスプレもする。地元の京都では、シャアのコスプレをしたまま市バスに乗ったことがあるという強者でした。

 永野さんの横にはひときわ目を引く美少女がいて、これが後に声優になり永野夫人となる川村万梨阿さん(編集部注/『機動戦士Ζガンダム』にもベルトーチカ・イルマ役として出演)です。東映の養成所に入っていて、役者を目指していました。

アルタ前に結集した
2万人ものアニメファン

 小牧編集長がイベントにかかりきりになっているぶん、私は「アニメック」の編集作業に没頭していました。それでも気になって、2月22日当日はアルタ前広場に足を運びました。アニメック編集部で徹夜作業し、その勢いのまま現地に赴いたのです。

 驚いたのは、アルタ前にどんどんファンが集まってきて、あっという間に想定していた会場スペースをはみ出してしまったこと。主催者側はせいぜい2000人の動員を予測していたそうですが、なんと2万人もの人間が押し寄せたのです。人の波は、西は中央線や山手線の線路の下を通る大ガード、東は伊勢丹の近くまで広がっていきました。

 この時、自分と同世代のアニメファンがこんなにもたくさんいる、という感覚を生で感じることができました。

 ただ、あまりにも人が集まり過ぎて、ステージ前が危険な状態になりそうでした。そこで富野監督が、「お前ら、動くな!」と声を張り上げて、人の波の混乱が一瞬で収まったのです。富野さんからは、ここで事故が起これば、世間からアニメファンのレベルを問われる、何としてもアニメの価値を下げてはならない、という強い思いが感じられました。富野さんは、常に「対世間」を意識していたのです。