「アニメージュ」が主催する「第1回アニメグランプリ」(1979年)で『機動戦士ガンダム』が作品部門1位を獲得した時、白いスーツ姿で日本武道館のステージに立ちました。

 それが他のアニメ関係者から、勘違いしている、と批判を受けました。しかし、富野さんには、「こうしたかっこうをしないと世間からアニメが馬鹿にされる」という強い信念があったと、後年私に語ってくれました。

「アニメ新世紀宣言」を企画した野辺忠彦さんや小牧編集長もきっと同じ気持ちだったでしょう。世間から白い目で見られているアニメというジャンルを認めさせたい。そのプライドが現れた企画でした。

若者の共通体験が
アニメになった瞬間

 スタッフたちのトークが終わると、ついにイベントのハイライト。『ガンダム』のキャラクター、シャアとララァのコスプレをした永野護さんと川村万梨阿さんがステージに立ち、よどみなく宣言文を読み上げます。

「私たちは、わたしたちの時代のアニメを初めて手にする。『機動戦士ガンダム』は、受け手と送り手を超えて生み出されたニュータイプアニメである。この作品は、人とメカニズムの融合する未来世界を皮膚感覚で訴えかける。しかし戦いという不条理の闇の中で、キャラクターたちはただ悩み苦しみ合いながら呼吸しているだけである。そこでは、愛や真実ははるか遠くに見えない。それでも彼らはやがてほのかなニュータイプの光明にたどり着くが、現実の私たちにはその気配すらない。なぜなら、アムロのニュータイプはアムロだけのものだから。

書影『メディアミックスの悪魔 井上伸一郎のおたく文化史』『メディアミックスの悪魔 井上伸一郎のおたく文化史』(井上伸一郎、CLAMP、宇野常寛、星海社新書)
©円谷プロ
©石森プロ・東映
©創通・サンライズ
©CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD.

 これは、生きるということの問いかけのドラマだ。もし、私たちが、この問いを受け止めようとするなら、深い期待と決意をもって、自ら自己の精神世界(ニュータイプ)を求める他ないだろう。今、未来に向かって誓い合おう。私たちは、アニメによって開かれる私たちの時代と、アニメ新世紀の幕開けをここに宣言する」

 私には、永野さんと川村さん、ふたりの姿が輝いて見えました。

 この日を境にパラダイムが変わりました。

 世間はようやく「アニメは子供だけが見るもの」から「アニメは新しい若者の文化」として認識を変えていきます。小牧編集長は、「フォークも政治運動ももうない時代、若者の共通体験はアニメになった」と当時新聞に語っています。