貝殻と動物の大型化
ちなみに、カンブリア爆発が起きたのは、カンブリア紀(五億三千九百万~四億八千五百万年前)をさらに一〇個の時代に分けたときの二番目と三番目の時代、つまりステージ2(五億二千九百万~五億二千百万年前)とステージ3(五億二千百万~五億一千四百万年前)と呼ばれる時代だが、ダーウィンが知っていた三葉虫などが出現したのはステージ3である。一気に出現したといっても、それは地質学的なスケールでの話で、実際には数百万年ほどのあいだに出現したことになる。
ダーウィンの時代には、このカンブリア爆発で進化した動物の化石が、知られているかぎり最古の化石だったので、「最古の生物が現生生物と同じくらい複雑な構造をしている」と思ってしまったのである。だが、以下に述べるように、これは仕方のないことであった。
カンブリア爆発の特徴の一つとして、武器や防御手段として、貝殻などの硬い組織が数多く進化したことが挙げられる。硬い組織は化石に残りやすいので、カンブリア爆発を境に化石記録が増大することになった。つまり、化石記録から見ると、カンブリア爆発における動物の増加は、実際以上に強調されていたのである。
また、別の特徴としては、動物が大型化したことが挙げられる。その理由は単純で、複雑なものは大きくなる傾向があるからである(というより、動物が大きくなったので複雑化した、と言った方が正確かもしれない)。大きくなれば化石に残りやすくなるので、これもカンブリア爆発を強調しただろう。
さらに、化石記録の不完全性も関係している。じつはカンブリア爆発の直前にも、比較的大きな生物群が進化していた。これはエディアカラ生物群といって、カンブリア紀の直前のエディアカラ紀(六億三千五百万~五億三千九百万年前)の後半に、ほぼ世界中に分布していた。このエディアカラ生物群の一部がカンブリア紀の生物の祖先となった可能性が高い。
エディアカラ生物群は硬い組織はほとんど持っていなかったが、目に見えるくらいには十分大きかったので、ダーウィンの時代に少しは発見されていても良さそうな気がするが、実際にはまだ発見されていなかった(発見されたのは一九四六年である)。