SNSが社会のインフラとなった現代では、企業が不都合な情報を完全に隠し通すことは不可能である。情報公開の遅れは、意図的な隠蔽だと受け取られ、会社の評判を二重に傷つける結果となった。

 食品の安全性に対する信頼と、企業としての誠実さに対する信頼の両方が、この60日間で失われていった。

追い討ちの異物混入、ピンチをチャンスに変えたすき家

 最初の事件への批判が渦巻く中、さらなる危機が会社を襲う。3月28日、東京都の昭島駅南店で、商品にゴキブリの一部が混入していることが発覚した。

 顧客からの連絡を受け、会社は即座に対応を開始した。最初の事件で失った信頼を完全に取り戻せない中で起きた2度目の事件は、会社の存続を揺るがしかねない事態だった。

 ゼンショーホールディングスの経営陣は、ここで劇的な方針転換を見せる。ゴキブリ混入の報告を受けた翌日の3月29日、会社は重大な発表を行った。3月31日から4月4日までの間、ショッピングモール内などの一部店舗を除く全国約1970店舗を一時的に閉店すると宣言した。最初の失敗から学び、危機に対する姿勢を根本から改めた決断だった。

 全国規模での一斉休業は、外食産業の歴史でもあまり例を見ない対応だった。

  この大胆な行動は、会社が問題を深刻に受け止め、本気で解決しようとしているという強いメッセージを社会に発信することに成功した。

 休業期間中、全店舗で専門業者による徹底的な清掃と害虫・害獣の駆除対策が実施された。営業再開にあたり、会社は具体的な再発防止策を発表した。すき家の強みの一つであった24時間営業を原則として取りやめ、深夜に清掃時間を確保する体制に変更したのだ。

 また、店舗裏のゴミ庫を冷蔵化し、害虫の発生源を断つ対策も進めた。老朽化した店舗の厨房改装も計画的に行うと約束した。事業の根幹にまでメスを入れる抜本的な改革は、付け焼き刃の対策ではないことを消費者に示した。

 これらの行動が、長期的な信頼回復への道を切り開いた。

 会社の対応が成功だったことは、数字が明確に物語っている。