全店休業の影響で、4月の既存店の客数は前年の同じ月と比較して84.0%まで落ち込んだ。売上高も92.8%にとどまった。しかし、回復は驚くほど早かった。

 営業を再開した翌月の5月には、既存店の売上高が前年比100.3%となり、前年を超える水準に戻った。客数は91.3%まで回復し、消費者がすき家に戻り始めていることを示した。

 このV字回復を支えたのは、客単価の上昇だった。4月3日に実施された牛丼並盛の値上げが消費者に受け入れられ、客数の減少を補って余りある効果を生んだのだ。

問題が起きた後に、信頼回復に重要なものは…

 マリク・アルタフ・フセイン氏とクリストファー・O・ドーソン氏が2013年に発表した論文「食品安全アウトブレイクが食品ビジネスに与える経済的影響」は、企業の規模に関わらない普遍的な原則を示している。

 論文では、食品安全問題が企業に与える経済的な打撃について、次のように述べられている。

《アメリカ経済への食品安全インシデントのコスト推定は約70億ドルで、消費者への通知、棚からの食品除去、訴訟による損害賠償から来る。これらの損失の多くは、市場喪失、消費者需要の喪失、訴訟、会社閉鎖を表す》

 この指摘は、どんな規模の飲食店であっても、一度信頼を失えば客離れという深刻な結果に直面するリスクを教えてくれる。すき家が初期対応を誤り、このリスクに直面したことは、全ての飲食店経営者にとって他人事ではない。

 さらに、論文は問題発覚後に取るべき行動の重要性についても触れている。

《昨今、問題のある食品を市場から回収する動きは非常に一般的になった。多くの場合、問題が広がる前に企業が自ら行動を起こすものであり、会社の運営に巨大なコストをかける。しかし、問題の疑いがある際にこうした行動を取ることは、製造業者が消費者の信頼を維持し、取り戻すために重要である》

 ここで重要なのは、行動の規模ではなく、その背景にある姿勢である。すき家が最終的に下した全店休業は、問題の可能性を認め、一度立ち止まって全てを点検するという誠実な姿勢の表明だった。