23週かけてようやくここへ。まだ“アンパンマン”じゃないヒーローが動き出した【あんぱん第116回】『あんぱん』第116回より 写真提供:NHK

日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月曜から金曜までチェックし、当日の感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年続けてきた著者による「読んだらもっとドラマが見たくなる」そんな連載です。本日は、第116回(2025年9月8日放送)の「あんぱん」レビューです。(ライター 木俣 冬)

正義を行うということは自分も傷つくこと

「私やっぱりこのおんちゃんが好き」

 第24週はついにサブタイトルが『あんぱんまん誕生』(演出:橋爪紳一朗、榎本彩乃)。

 長かった。ここに至るまでに23週間もかかった。

 戦争が終わって20年近く、いまなお戦争のトゲが刺さったまま抜けない人たちがいる。嵩(北村匠海)は無力ながら「ヤムさん(阿部サダヲ)やみんなの心のトゲを抜いてあげたいんだ」と考えた。そして、ラフスケッチをようやく仕上げる。

 今日ののぶ(今田美桜)は、「嵩さん」「邪魔してごめんなさい」「何か食べた?夕飯もまだでしょう」とロールパンのサンドイッチを持って嵩の仕事場に入ってきたときの口調がおしとやか。ちょっとワントーン高かった。

 のぶは、何度見ても、この太った冴えないおじさんが好きで「私やっぱりこのおんちゃんが好き」と言うと「ちっともかっこよくないけどね」と嵩。

 太ったおんちゃんが空を飛んでいるモノクロのイラストに仕上げた嵩はそこにストーリーをつけた。戦場を敵と味方関係なく、食料(ぱん)を配ってまわるおんちゃん。国境近くで敵と間違われて撃ち落とされてしまう。でも決して死なない。

 のちに、のぶは「ええことしゆうのになんで撃ち落とされてしまうが?」と聞く。すると嵩は「正義を行うということは自分も傷つくことを覚悟しないといけない。僕はそう思うんだ」と答える。

 嵩の描くヒーローは、見た目はかっこよくなく、満身創痍。そういう人が貫く正義が信じられる。嵩とのぶが探している「逆転しない正義」とはそういうものなのかもしれない。