2017年の発売以降、今でも多くの人に読まれ続けている『ありがとうの魔法』。本書は、小林正観さんの40年間に及ぶ研究のなかで、いちばん伝えたかったことをまとめた「ベスト・メッセージ集」だ。あらゆる悩みを解決する「ありがとう」の秘訣が1冊にまとめられていて、読者からの大きな反響を呼んでいる。この連載では、本書のエッセンスの一部をお伝えしていく。

「相手の優れたところ」を見抜き、教えてあげることが、本当の教育である
吉田松陰という人をご存じだと思います。
山口県萩市の「松下村塾」で若者を教え、その教え子たちが「明治維新」を起こし、明治政府の要人になった、ということで広く名を知られる、傑出した人物です。
吉田松陰は、わずか29歳で刑死するのですが、彼が志士たちにどのような教育をしたのか、大変、興味の湧くところです。
松陰は23歳のとき、浦賀に来たアメリカ船に乗って渡米することを企てましたが、それが発覚し、捕らえられ、「野山の獄」に投獄されたそうです。
雑居房に入れられた松陰は、たくさんの「荒くれ者」たちと生活をともにすることになります。そこで松陰は、彼らにこういう提案をしたそうです。
「みなさんには、それぞれ特技があるのではないでしょうか。せっかくみんなが集まっているのですから、それを教え合うことにしませんか?」
書の上手な人には、「あなたは『書』が大変上手ですから、それをみなさんに教えてあげませんか」と声をかけ、その囚人を上座に座らせた。そして、みんなが「先生」と呼んで敬ったというのです。
俳句の上手な人がいれば、その人を「先生」と呼んでみんなで俳句を学び、和歌の上手な人がいれば、同じように「先生」と呼んで敬った、というのです。
松陰自身は「私は何の特技もないから」と言って、「孟子」の教えについて講義したそうです。
生まれてからずっと、「乱暴者」として邪険にされてきた囚人たちは、生まれてはじめて「先生」と呼ばれ、上座に座らされ、尊敬される立場に置かれ、凶悪犯ですら感涙にむせんだ、といわれています。
松陰が「松下村塾」の生徒たちに行った教育というのは、「あなたは憂国の士として、日本一の者である」とか、「あなたの弁論は、素晴らしい説得力を持っている」というような感じで、一人ひとりの長所を見抜き、それを教えてあげることだったようです。
松陰は「誰でも、人にはよいところがある」と言い続けたそうですが、「人を見る目」の根底には、「天性のやさしさ」があったのでしょう。
しかも、松陰のすごいところは、それが「的外れ」ではなかったことです。
松陰に長所を指摘された人間は、「たしかに自分にはそういうところがある」と思い、努力をしてそれを磨き、一人ひとりが素晴らしい人間に成長していったそうです。荒くれ者だった囚人たちも、出獄後は、まっとうに生きている人が多かったらしいのです。
松陰が行ったこのような「教育のしかた」「人の導き方」は、私たちに大きなことを教えてくれているような気がします。
まったくの余談になりますが、私たちは、人が集まったときに、「吉田松陰ごっこ」という遊びをすることがあります。交代でひとりずつ「先生」になって、「自分が他の人よりも詳しいこと」について、10~15分程度、説明をするのです。
魚の種類でも、ファッションでも、高山植物でも、星座でも、恐竜でもいいでしょう。その人(先生役の人)の趣味や特技、あるいは職業的に学んできたものを聞くのは、非常に楽しいものです。
そして、「この人はこういう知識を持っていたのか」「この人はこの分野に詳しいんだ」ということがわかると、その人の奥深さがわかり、今まで以上に親しみを持って接することができるようになるのです。
みなさんにも、ぜひやってみることを、おすすめします。