シンガポール国立大学(NUS)リー・クアンユー公共政策大学院の「アジア地政学プログラム」は、日本や東南アジアで活躍するビジネスリーダーや官僚などが多数参加する超人気講座。同講座を主宰する田村耕太郎氏の最新刊、『君はなぜ学ばないのか?』(ダイヤモンド社)は、その人気講座のエッセンスと精神を凝縮した一冊。私たちは今、世界が大きく変わろうとする歴史的な大転換点に直面しています。激変の時代を生き抜くために不可欠な「学び」とは何か? 本連載では、この激変の時代を楽しく幸せにたくましく生き抜くためのマインドセットと、具体的な学びの内容について、同書から抜粋・編集してお届けします。

世界基準を知らない日本人
ここで、学ばない我々日本人が、大きな損失を出している生々しい事例を紹介したい。
最近、残念ながら、「さもありなん」という話を聞かされた。2025年のお正月に滞在した大阪でのことだ。
多くの大阪の地元の飲食店が、バルク(大量購入)で外資のプライベート・エクイティ・ファンド(未公開株式を取得し、売却してキャピタルゲインを得ることを目的とするファンド)に安く買い叩かれた末、リニューアルオープンして繁盛し、結局、キャピタルゲイン(売却益)もインカムゲイン(継続的な利益)も、全部外資に持っていかれたという話だ。
地元の名士の方が、私を食事に誘おうと思い、馴染みの老舗の名店に連絡を取ったところ、軒並みオーナーが変わっていたという。
しかも、日本人ではなくなっていて、話がまったくかみ合わなかったらしい。
これはどういうことなのか?
簡単に言うと次のようになる。
・買い叩かれたとは言っても、店を売った日本人たちは、「高く売れた!」と思っている
・でも、買った外資側は、そこに違う価値を見ていて、“日本人は十分高いと思う値段”でも、外資からした
ら何分の1、何十分の1でしかないくらい安い
・結局、日本人は世界を見ていないので、世界の相場や価値観を理解していない。なので、外資からみたら
格安価格でしかないのに、「やった儲かった! ありがとうございます」と手放しで喜んでいる
ということだ。これが、世界を見ていないリスクの典型だ。
相場観も価値そのものも、日本の中にずっといて、閉じこもっていたらわからないのだ。
ごくたまにでもいいから海外に行って、海外の街並みや相場観に触れ、現実を学ぶことだ。日本の価値や利点は、自国を離れて相対化して見ないと、わからないものなのである。
世界を学ばないから、貧すれば鈍する
一言で言えば「貧すれば鈍する」である。
確かに、今の大阪の街並みを見て思ったのは、「伝統ある大阪の街」というよりは、どこか「外国人が好きそうな日本の街」になりつつあるということだ。
外国人相手に外国人が商売して、日本人オーナーは買い叩かれ、そこで働く日本人は、安く使い倒されている。
そして、日本人はまじめで勤勉だから、使い倒されていることすらわからない。
今後は、観光資源を持つ地方都市が、バルクで外資に買い叩かれていくだろう。
自分も超・田舎者だからわかるが、北海道のニセコもそうだが、世界基準を知らない田舎者たちは、外資からみたら格安値段でも、喜んで売りまくるだろう。
もちろん自分の財産を売るのは自由だが、最低でも相場観を頭に入れて、外資に手ごわいと思わせる交渉はすべきだ。
できたら、外資には部分出資にとどめさせて、自分も経営に参画して、学びながらやがて主導権をとって美味しいところは、自分が持っていくくらいしたたかになったほうがいい。
望ましい最終形は、「そういう手ごわい外資から学んだ日本人が、地方都市をリスペクトしながら、世界基準で再生させていく」ことである。
彼ら外資は、何をどうしたら世界基準のインバウンドに受けるか? を普通に知り抜いているのだ。
(本稿は『君はなぜ学ばないのか?』の一部を抜粋・編集したものです)
シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院 兼任教授、カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル・リーダーシップ・インスティテュート フェロー、一橋ビジネススクール 客員教授(2022~2026年)。元参議院議員。早稲田大学卒業後、慶應義塾大学大学院(MBA)、デューク大学法律大学院、イェール大学大学院修了。オックスフォード大学AMPおよび東京大学EMP修了。山一證券にてM&A仲介業務に従事。米国留学を経て大阪日日新聞社社長。2002年に初当選し、2010年まで参議院議員。第一次安倍内閣で内閣府大臣政務官(経済・財政、金融、再チャレンジ、地方分権)を務めた。
2010年イェール大学フェロー、2011年ハーバード大学リサーチアソシエイト、世界で最も多くのノーベル賞受賞者(29名)を輩出したシンクタンク「ランド研究所」で当時唯一の日本人研究員となる。2012年、日本人政治家で初めてハーバードビジネススクールのケース(事例)の主人公となる。ミルケン・インスティテュート 前アジアフェロー。
2014年より、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院兼任教授としてビジネスパーソン向け「アジア地政学プログラム」を運営し、25期にわたり600名を超えるビジネスリーダーたちが修了。2022年よりカリフォルニア大学サンディエゴ校においても「アメリカ地政学プログラム」を主宰。
CNBCコメンテーター、世界最大のインド系インターナショナルスクールGIISのアドバイザリー・ボードメンバー。米国、シンガポール、イスラエル、アフリカのベンチャーキャピタルのリミテッド・パートナーを務める。OpenAI、Scale AI、SpaceX、Neuralink等、70社以上の世界のテクノロジースタートアップに投資する個人投資家でもある。シリーズ累計91万部突破のベストセラー『頭に来てもアホとは戦うな!』など著書多数。