「高齢顧客に投信を勧めてもいいのか」葛藤する金融機関の営業マンが、納得できる仕事をするための“考える投資”とは写真はイメージです Photo:PIXTA
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

自ら考える力を強化し真のプロ営業へ

 投資信託等の金融商品販売に従事する金融機関職員に尋ねたい。

 顧客に勧める株式投信に組み込まれている銘柄について、一つひとつ調べてみたことはあるだろうか。取り扱い商品のメインがパッシブファンドだから、ポートフォリオ全体のパフォーマンスの推移だけを見ておけばよいと思っていないだろうか。個別銘柄を見ると、景気の良し悪しにかかわらず、価格が上昇し続ける株式もあれば、好景気でも乱高下する株式もある。あなたが販売する投信がどのようなリスク(価格変動性)を持つ銘柄で構成されているのか、気にならないだろうか。

 こうした質問をするのには理由がある。「納得できる仕事をすること」が、長期的に自身の市場価値を高める源になるからである。

 以前、筆者が金融機関の若手職員向け研修をしていた際、受講していた営業担当者から「高齢者に株式投信を勧めることに葛藤がある」と相談を受けた。「自分で納得がいくものを売ったらどうか」と助言すると、その担当者は遺言信託の販売に専心し、高成績を上げて意気揚々と本部の有価証券運用部門に異動した。顧客のリスクとニーズの認識に敏感な人材こそ、運用に向くという一例だ。

 筆者はグローバル金融資本市場に40年関わっている。2008年、外資系運用会社の社長を務めていた時、リーマンショックで世界株式インデックスが五十数%暴落した。損失を膨らませた年金基金の顧客は私にこう叫んだ。「あなた方に任せた金は、社員の老後の大事な年金原資だと分かって運用してくれているのか!」と。その言葉は今でも心に刻まれている。

 もしあなたが当時、その年金基金の責任者だったら、「積み立て分散投資をしていればいつかは上がる“はず”」と平気で買い進められただろうか。真のプロ営業は、顧客のリスクや損失に対する金銭的かつ“感情的”な許容度を量らなければならない。