働き方が多様化するなか、「定年=引退」というモデルは過去のものとなりつつある。「現役時代のようなフルタイム勤務ではなく、ストレスなく、少ない時間で続けられる仕事があれば……」と考える人も少なくないだろう。では、65歳以降、豊かに暮らすにはどうすればいいのか。そして、定年後の仕事にはどんな選択肢があるのか。本記事では『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』の著者・坂本貴志氏にインタビューを実施。仕事の実態を、就業データと当事者の声をもとに紐解いてもらった。(構成・聞き手/ダイヤモンド社書籍編集局、小川晶子)
定年後に独立起業という選択肢はアリか
――65歳以降も何らかの仕事をしている人は増えているそうですが、定年後に起業する人もいるのでしょうか?
坂本貴志氏(以下、坂本):以前の記事でも述べましたが、65歳までは、これまでの職場で働き続けた人の満足度が高いという結果でした。
一方、65歳以降は「雇われる働き方」をやめ、「小さな仕事」をして満足して働いている人が多いです。
起業というと、たとえば飲食店など自分のお店を新しく構えて経営していくといったイメージがあるかと思いますが、そういう方は数としては少ないです。一方、フリーランス、個人事業主として働く方は多くいらっしゃいます。
たとえば業務委託を受けて保険営業の仕事をするとか、社会保険労務士の資格を取得して人事関係の仕事をするなどです。
――『定年後の仕事図鑑』にある「フリーランスの職種内訳(60歳以上)」を見ると、不動産営業が3.1万人、保険営業が2.2万人、その他営業職が6.6万人と営業系の職種の方や、弁護士・弁理士・司法書士が4.2万人、公認会計士・税理士が2.3万人など士業の方も多くいることがわかりますね。

シルバー人材センターに登録して働く
坂本:シルバー人材センターを利用して働く方も多いのですが、これも業務委託なんです。ですから自営業のくくりになります。
――知りませんでした。本書にはさまざまな仕事を実際にされている方へのインタビューが載っていますが、その中に、シルバー人材センターの紹介で、小学校の通学路を見守る交通指導員をされている方もいらっしゃいました。そういったお仕事もあるわけですね。うちの近所の小学校も登下校時に旗を振って見守ってくださっていて、いつもありがたいなと思っていました。
坂本:そうなんです。定年後の仕事や働き方にはどのようなものがあるのか、ぜひ本書で確認してみてください。いろいろな発見があるのではないかと思います。
定年まで長年会社員を続けてきた方からすれば、「仕事をする=会社に雇われる」という感覚が強いかもしれませんが、定年後は自営業やフリーランスとして働くこともぜひ検討していただきたいですね。
定年後にフリーで働くメリット・デメリット
――定年後に、フリーランスとして働くメリットついて教えてください。
坂本:まず、自由であることが大きなメリットです。雇用されている場合は会社の命令によって働く必要があり、ある程度拘束されることになりますが、フリーランスは仕事の内容も働き方も自分で決めることができます。
――やはりそれはいいですよね。デメリットはどうでしょうか?
坂本:一般的に、雇用されない働き方のデメリットとして大きいのは社会保険の問題です。厚生年金に加入できず、若い人にとっては将来もらえる年金が少なくなります。現役世代をフリーランスとして過ごすのであれば、私的年金で積み立てをしなければ老後に豊かな生活をするのは厳しいのが現実です。
また、自営業やフリーランスは継続雇用に比べて基本的に定収入で不安定な面がありますから、現役世代にとってはリスクのある働き方と言えます。
でも、シニアの方は年金をもらう側ですし、国民健康保険料にしてもあまり負担は大きくなりません。それに、それほど稼ぐ必要もないのです。
本書では月に10万円をひとつの基準としていますが、フリーランスで無理なく月10万円を稼ぐのは難しいことではありません。
総合的に見て、定年後にフリーランスになるのは良い選択肢だと思います。
(※この記事は『定年後の仕事図鑑』を元にした書き下ろしです)
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト
1985年生まれ。一橋大学国際・公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。研究領域はマクロ経済分析、労働経済、財政・社会保障。近年は高齢期の就労、賃金の動向などの研究テーマに取り組んでいる。著書に『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』のほか、『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(共に、講談社現代新書)などがある。