「運だけが必要な企画だから、これで出演者を決めます」。差し出された抽選箱から順番に三角くじを取っていき、一斉に開く。当たりの文字が見えた瞬間、「奇跡が起きた」と思った。
国内外の著名な政治家や芸能人を「アポなし」で直撃し、海外をヒッチハイクで巡る。過激な企画で人気だった番組への出演は、有名になる大チャンスだった。
新企画の内容は雑誌やラジオの懸賞に応募し、当てた賞品で暮らす「懸賞生活」。放送されないかもしれないと言われたが、スタッフに顔を売れればいいと思っていた。
当選品の総額が100万円に達したら、部屋を出られるルール。簡易型携帯電話(PHS)は取り上げられ、外部との接触は禁じられた。精神状態を確かめるため毎日、日記を書くよう指示された。
〈私は馬鹿になることを心に決めました〉。
朝、ビデオカメラのスイッチを入れ、黙々とはがきに向かう。初当選は半月後。届いたゼリーの詰め合わせに喜びを爆発させた。〈生きてきた中で一番うれしい〉
これ以降、乾パンの支給はなくなった。食べ物が途絶えた時は、ドッグフードを口にして飢えをしのいだ。
「トントン」。玄関をノックする音がすると、胸が高鳴る。当選品で一番うれしかったのがコメ。狂喜乱舞する姿は「当選の舞」と名付けられた。
「笑わせようなんて一切思っていない。太古の昔から、人間は生きられる喜びを実感すると、歌い、踊る。感情が爆発すると、自然とそうなるんですよ」
裸でテレビに出ないという
母親との約束を破るしかない
本名は浜津智明。福島県警の警察官の父と専業主婦の母の間に、長男として生まれた。まじめで勉強ができた。物心ついた頃から自分の細長い顔が、嫌いだった。
