吉沢亮が思い詰めた表情で演じる“お世話係”、まるで「恋仲」なセリフに突っ込みたくなる〈ばけばけ第55回〉『ばけばけ』第55回より 写真提供:NHK

今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」連載です。本日は、第55回(2025年12月12日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)

「なら言っとくわ、大変よ、先生を射止めるのは」

「まったく何をのんきに破局しちょるんじゃ」
「わしらの行く末がかかっちょる言うのに」

 ヘブン(トミー・バストウ)の悲しい過去をつゆ知らず、司之介(岡部たかし)は自分のことばかり考えている。

 リヨ(北香那)のプロポーズがヘブンに受け入れられなかったらしいと聞いた松野家。このままトキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)の給金70円がもらえなくなると、松野家の生活がやばい。

 いつの間にか勝手に20円から70円にぐんと上げてしまっている司之介。勘右衛門(小日向文世)もフミ(池脇千鶴)もトキも、さすがに司之介の態度が「ひどい」と批判的だ。

 勘右衛門はリヨを困難な恋に挑む「同志」と思っているので、彼女の失敗に心を寄せていた。

 トキが朝食を終え、出勤しようと家を出るとリヨが待っていた。

「たくさん協力してくれたじゃない」とお礼を言いに来たのだ。リヨはお嬢様育ちだから、礼儀正しい。

「あなたが前に言ってた『先生は通りすがり』という意味がようやくわかりました」と言うリヨ。

「あんなことがあったからなのね」

 だがトキは「あんなこと」をまだ知らない。

「なら言っとくわ。大変よ、先生を射止めるのは」

 意味深にささやくと、「それじゃグッバーイ」とリヨは軽やかに去って行く。

 短期集中、やるときは全力でやる。諦めるときはすっぱり諦める。ライバルを牽制(けんせい)はするが、闘いが済めば、さわやかに。お嬢様はなかなか素敵な人だった。